近年、「クラフトビール」という単語を見聞きする機会が増えたと思いませんか? ビール離れといわれていますが、実は30代の若年層を中心にクラフトビールの人気は右肩上がり。その理由は、味のバリエーションが豊富であることや、ラベルデザインがおしゃれで個性的など、イマドキのライフスタイルに合っているからと考えられます。この数年で国内のブルワリー(醸造所)の数も増え続けており、まだまだ伸び代が感じられるクラフトビール。今回は、クラフトビールとは?という基本的なことから、導入のメリット・デメリットなどについてまとめました。
そもそもクラフトビールとは?
クラフトビールとはどのようなビールなのでしょうか。酒税法などで定義されているものはありませんが、「小さな醸造所が造ったビール」と日本では解釈されています。「クラフト」という言葉には、技能や技巧、手工芸といった意味があり、職人の技を持った醸造家が勘や知識に基づいて造ったビールともいえるでしょう。業界内では、「造り手の想いや感性、創造性が感じられるビール」と定義する人もいます。
日本ではかつて、年間2000キロリットル以上のビールを造らなければならないという法律がありました。しかし、1994年の酒税法改正により、最低製造数量が60キロリットル以上に引き下げられました。これを機に、全国各地に小さな醸造所が次々と誕生。「地ビール」と呼ばれ、おみやげの人気商品となりました。呼び方が「クラフトビール」になったのは2010年頃からで、この頃からみやげ物の印象はすっかり薄らぎました。ここ数年は飲食店で飲める機会も増え、スーパーの棚にも並ぶようになり、さらに身近な存在となりました。
クラフトビールの売り上げは年々伸びているといわれています。こうした流れを大手メーカーも無視することはできず、国内外のクラフトビールのブルワリーとの資本提携や買収を行うケースも出ています。
クラフトビールの種類
さまざまな種類のクラフトビールが各地で造られています。どのような種類があるかをここで簡単に説明しましょう。
まず、ビールを造り方(発酵の方法)で分けると大きく2つに分けられます。上面発酵の「エールビール」と、下面発酵の「ラガービール」です。
・ラガービール
くせ→クセがなく、のど越しすっきりという特徴があります。日本の大手メーカーが製造しているビールの大半はこのタイプです。
・エールビール
香りが豊かで、味にパンチやコクがあり、飲みごたえがあります。多くのクラフトビールがこのタイプです。
さらに、ラガーとエールの中で細かくカテゴリー分けされます。クラフトビールに多いのは、「ピルスナー」「ペールエール」「ヴァイツェン」「スタウト」「フルーツビール」など。
・ピルスナー
ラガービールの一種。ピルスナーの中でも、甘みとコクが強い「ボヘミアンピルスナー」や、ホップの苦みが強めでドライな「ジャーマンピルスナー」などがあります。
・ペールエール
エールビールの一種で、ホップやモルトの香りが豊かなのが特徴。クラフトビールのブルワリーで多く醸造されているのがこのペールエール。
・ヴァイツェン
小麦麦芽を50%以上使った白ビール。バナナのような甘い香りがします。苦味も少なく、女性たちに人気。エールビールの一種です。
・スタウト
スタウトで有名なのはギネスビール。エールビールの一種で、しっかりした香ばしい香りが特徴の黒系ビールです。
・フルーツビール
エールビールの醸造の途中で、果汁やフルーツを入れたビール。フルーツの種類や投入のタイミングで味が変わってくるので、種類は多彩です。
ほかにもビールの種類はさまざまあります。造り方でカテゴリー分けされますが、それぞれのブルワリーで、醸造家たちが独自のクラフトビールを造り上げています。クラフトビールがいかに多様かお分かりいただけたのではないでしょうか。
クラフトビールの人気の理由
冒頭でも述べましたが、感度の高い30代を中心に人気が出ているクラフトビール。その理由の一つが、豊富な種類です。味や香り、色など、その日の気分や料理に合わせてビールを選べる楽しさが醍醐味ともいえます。さらに、苦味が少ないものやフルーティーな味のビールもたくさんあるので、これまでビールを敬遠していた層にも受け入れられ、女性ファンも急増。多様性という考え方が社会全般で浸透しはじめている昨今、自分で好きなビールを選び、自由に楽しむというスタイルが時代にマッチしているようです。
小規模ブルワリーで出荷数に限りがあるがゆえの稀少性も人気理由の一つ。さらに、それぞれのブルワリーやビールに物語があり、醸造家の想いがあります。そのようなバックグラウンドや特別感、オリジナリティーが消費者の心を掴んでいるとも推察できます。ラベルやパッケージデザイン、ネーミングのセンスの良さも若年層ファンを取り込んでいる要因です。自分がいいと思ったもの、心動かされたものを紹介したいという人たちが、クラフトビールのある生活をSNSにアップ。こうした動きがクラフトビール人気を後押ししているとも考えられます。
導入する際の注意点について
ここでは、導入時の注意点について紹介します。注意点は2つ。まずは、通常のビールよりも原価が高いということ。大手ビールメーカーの一般的なビールに比べ、原価率はと考えてください。←? そのため、価格設定には気をつけなければなりません。単純に価格を高めにするのもひとつの手ですが、「高い!」と思われる可能性があるため、提供する量を調整するなど工夫が必要になります。
もう一つは、流通方法によってはビールの劣化が早いということ。日本のクラフトビールは無濾過・非加熱処理タイプが大半で、劣化を抑える製法で造られてはいません。問屋や酒店を通す場合、温度管理ができていないケースもあるのでこの辺りも注意を。また、賞味期限が短いため、仕入れる量はよく考えた上で発注することが必要です。
導入のメリット&デメリット
クラフトビールを店に置くことによるメリットとデメリットは当然あります。考えられるものを挙げていきます。
<メリット>
クラフトビールが人気の今、クラフトビールを置くことがお客さまの来店動機に大きくつながることは明らかです。また、店のスタッフがクラフトビールに関して知識を深めることにより、クラフトビールファンの顧客満足度がアップ。リピーターを増やすことも可能です。
クラフトビールは種類が豊富なので、数種類用意すれば、飲み比べをしたいと考えるお客さまが必ずいます。そのため追加注文の期待ができます。また、原価が高い分、価格設定も工夫次第で高くすることが可能です。通常と異なるビールグラスで提供する、それぞれのビールに合ったフードメニューを用意するなど、特別感や付加価値を付けて演出を図ることも大切。そうすることで客単価のアップも狙えます。
<デメリット>
無濾過・非加熱処理されているものが大半なので、常時冷蔵保管が必要となります。そこで保管する場所が用意できるかが問題になります。樽で店に置く場合は、大きな冷蔵庫が必要な上、ビールサーバーを専門業者に依頼することになります。サーバーは小型で40万円~、大型で100万円~。導入については、長期計画を立てた上で考えたいところです。
また、クラフトビールは賞味期限が短いため、導入後は商品の回転も意識しなくてはなりません。
たくさんの種類のクラフトビールを用意すればするほど種類が増え、ひとつひとつの商品の回転が悪くなります。きちんと考えないと賞味期限ロスが多くなってしまいます。
種類に応じてグラスを使い分ける場合は酒器もたくさん必要になることを念頭に置いてください。
まとめ
クラフトビールが、時代にマッチした魅力的な商品であるとお伝えしました。音楽やファッション業界からも注目され、さまざまなコラボを展開しているブルワリーも多数。その可能性はどんどん広がっています。今後は、看板にクラフトビールという文字があるかないかが、店選びの基準の一つになるかもしれません。新しいドリンクメニューを考えている方、なんとなく面倒でクラフトビールの導入を躊躇している方、この機会に導入するかどうかをぜひ検討してみてください。