なぜ、ワインに亜硫酸を入れるのか?

お酒の知識

今回はワインに含まれる添加物についてのお話です。

今の時代、スマートフォンなどで調べれば飲みたいワインの情報はすぐに調べられます。その中でも、「酸化防止剤がたくさん入っているワインは悪酔いする」「酸化防止剤が入っていないワインは頭が痛くならない」などと見聞きすることが多くあり、消費者の方はブドウの品種や産地だけでなく、ワインに含まれる添加物にも関心が高まっているのを感じております。しかし、この「悪酔いする」「頭が痛くなる」などという事は本当に酸化防止剤の影響なのでしょうか?

結論から言いますと、酸化防止剤が入っていないワインでも悪酔いはします。

ブルゴーニュを代表する造り手、フィリップ・パカレさんは「ワイン造りは全て化学で証明できる」と話しております。“自然派”の代表的な生産者として名前が上がるパカレさんですが、自身の行うワイン造りは全て化学で証明できると考えているそうです。酒屋だけでなく、飲食業に関わる方もお客様への情報提供がさらに必要となっているはずです。私はワイン生産者でもなく、化学者でもないので、専門家のような意見は述べられませんが、自分が経験したことや、先輩方から教えていただいたことを書いていきます。

亜硫酸とは何者?

亜硫酸とは、酸化した硫黄(SO₂)が水に溶けている状態のことで、言い換えると「形を変えた硫黄」です。硫黄は、火山や温泉など自然界に存在する物質で、数千年前の古代エジプトやローマ時代からワイン造り(主に樽の消毒など)に利用されていたとされます。ワインでは、よく「SO₂添加・無添加」と表現する事が多いのです。

化学式で表すと、
「SO₂ 二酸化硫黄」+「H₂O 水」→「H₂SO₃ 亜硫酸」
となります。

SO₂を添加したワインの中には「水分」がありますので「二酸化硫黄」と「水」の化合物で「亜硫酸」となります。「硫酸」という言葉からは有害なものをイメージしてしまいがちですが、実際の所はワインと私たちの体にはどのように関わっているでしょうか?

亜硫酸がワインに与える効果

酸化防止効果

まず一番の目的は、その名の通り『酸化によるワインの香味の劣化を防ぐ』ことです。
亜硫酸はワインに含まれる他の成分より酸素と速く結びつくことで、ワインの酸化を防ぎます。さらにアルコールが酸化した時に発生するアセトアルデヒドと結合し、酸化した状態からも回復してくれます。

生産者によってですが、亜硫酸を収穫の段階で一度添加するケースがあります。最もデリケートな収穫したてのブドウが、劣化しないよう微量の亜硫酸でカバーします。ワインはブドウと酵母から造られるお酒です。ブドウを収穫する時に果実が破損してしまうと、もうそこから酸化は始まります。破損したブドウがワインに酸化の影響を及ぼさないよう、手摘みで丁寧に収穫し選果していきます。機械で一気に収穫し、選果を厳密に行わない大量生産のワインは、醸造中に亜硫酸を多く添加する必要があります。この後も酸化の影響を受けやすいタイミングで亜硫酸を添加し、ワインの状態を守っていきます。

影響を受けやすいタイミングとしては、

◇ブドウ品種ごとに分けて仕込んだワインをブレンドした時
ステンレスタンクから熟成用の樽に移す時
◇熟成が終わり、瓶詰めする時

などがありまして、粉末や液状、錠剤など様々な形で添加がされています。

殺菌効果

もう一つの役割は『微生物の活動を防ぐ』ことです。樽などの醸造器具の殺菌、不潔な香りを生み出す悪玉酵母や雑菌の繁殖を防ぐための添加など、古代から現代まで、変わらず醸造中の細菌管理にも利用されています。また、甘口ワインや無ろ過のワインなどは、糖分を多く含むので細菌の増殖や、瓶内の酵母による再発酵のリスクがあります。そこで、亜硫酸を加えることで細菌の増殖を防ぎ、瓶内に残った酵母の動きを弱らせ再発酵を防止します。

亜硫酸がワインの香味バランスに与える影響

感覚的なことではありますが、SO₂の添加量が少ないとワインのテクスチャーを柔らかく感じる事が多いです。テクスチャーが柔らかすぎて、ワインの骨格や重心がぶれていると感じることもありますが、香りにも果実の柔らかさやピュアさが表現されています。

また、SO₂を入れるとワインが引き締まった味わいになると言われています。適度な量のSO₂はワインに骨格やボディを与えますが、多すぎると、タンニンや喉越しにイガイガする感覚があります。この事より「適量の添加によってワインを整える」という役割を果たしているはずです。
それから、ブドウの細胞壁を溶かし、果皮から色素(ポリフェノール)を抽出しやすくします。低温浸漬(タンニンを押さえつつ、色や香りを引き出す醸造方法)を行う場合、色素の抽出しやすくするために、必ず少量のSO₂を添加します。

亜硫酸が少ないと二日酔いしない? 

続いて「亜硫酸が人の体に与える影響」についてです。まず前提として、亜硫酸は高濃度で体内に入れば人体に有害であることは間違いありません。しかし、ワインに含まれる亜硫酸は他の食品と比較しても低濃度。ワインの中に溶けこんだ時点で亜硫酸の約半分が糖分などの他成分と結合して無害な状態になり、人体に影響する量は添加した量よりも少なくなります。そして、瓶詰め後も時間の経過にともに減少していきます。

亜硫酸の悪い点で最も言われているのが「頭痛がする」です。これが巡り巡って「酸化防止剤が入っているワインは頭が痛くなるお酒」なんて言われています。しかしながら実際には、亜硫酸が人体に直接影響しているわけでは無いようです。どんなお酒でも飲みすぎれば頭は痛くなりますし、それは亜硫酸が入っていないワインも一緒です。

亜硫酸塩が人体に与える影響は大きく3つ挙げられます。

①体内で消化の働きをする微生物の活動を抑制する。
②肝臓の働きに重要なビタミンB1と結合して不足させてしまう。
③喘息持ちの方は、少量の摂取でも有害な反応を起こす場合がある。

①と②より内臓の働きを鈍くし、糖とアルコールの分解を遅くするということがわかります。疲労感や頭痛といった「二日酔いがヒドイ」ということです。また、喘息やアレルギーの方は、極少量でも発作を引き起こす可能性があり、ワイン等の摂取を止める医師もいるそうです。

清潔で健康な原料ブドウを手作業で細かく選果しているワインには、ワインの状態を守り味わいの構成を整えるために最低限の亜硫酸だけが添加されます。一方でブドウをきちんと選定しない大量生産の低価格ワインは、前述にもありますが、収穫時に破損した果実から雑菌が増殖するリスクがあるので、多量の亜硫酸添加が必要とされています。

この情報だけが独り歩きしてしまい、「安いワインを飲むと頭が痛くなる」⇒「亜硫酸のせいで頭痛がする」と言われる実態のようです。ただ、亜硫酸を添加しなくてもアルコール発酵の過程では、酵母の働きによって自然とワインの中に亜硫酸は生成されます。なので、多量に亜硫酸を含んだワインと比べるとそのリスクは少ないはずですが、飲み過ぎてしまえば亜硫酸が入っていないワインでも二日酔いはします。

まとめ

亜硫酸という物質そのものが悪いわけではありません。むしろ少量なら、ワインにとってのカゼ薬や予防薬のような役割をしているように感じます。亜硫酸が多量に含まれているワインには、多量に添加しなくてはならない理由があるのです。

いろいろな情報が溢れている世の中だからこそ、このような理由があることを皆様に知っていただきたく文章にさせて頂きました。