ニューワールドの中でもコスパの高さで知られる南アフリカのワイン。南アフリカでのワイン造りの歴史は古く、世界で一番環境に配慮したワイン造りに取り組んでいる国でもあります。酸化防止剤の使用も少なく、高品質でエコなワインは世界中から支持を集めています。今回は南アフリカのワインについて紹介。コスパはもちろんですが、環境などへの意識が高いお客さまがいらっしゃった際におすすめできるよう用意しておくのもおすすめです。
南アフリカのワインの歴史
南アフリカのワイン造りの始まりは、1600年代の大航海時代までさかのぼります。ヨーロッパとアジアを結ぶ航路の中間地点であった南アフリカのケープタウンは、食料の補給基地として、オランダ東インド会社の船が寄港するようになります。同社の初代現地法人代表であったオランダ人のヤン・ファン・リーベックが、1655年にケープタウンでブドウ栽培をはじめ、4年後には初めてのワインを完成させます。船乗りたちのために造ったワインが、南アフリカのワイン造りの始まりだったのです。その後、移住してきたフランス人がワイン造りをより発展させたとも言われ、18世紀にはコンスタンシア産の甘口ワインがヨーロッパへ輸出され、イギリスやフランスの王族に人気を博します。
ところが、17世紀からオランダ、イギリスの植民地支配を受け、独立後も人種隔離政策であるアパルトヘイトが続いていた南アフリカ共和国は、20世紀後半に入ると、国際的な経済制裁により、ワインの輸出が滞るようになります。1994年にアパルトヘイトが廃止されると、再びワイン造りや輸出が盛んに行われるようになり、小規模の高級ワイナリーも増え、先進国からの投資やブドウ品種の改植なども進められ、ワイン造りが活発化していきます。「自然環境保護とワイン産業の共栄」というコンセプトのもと、1998年には減農薬や減酸化防止剤、リサイクルの徹底や水源の維持などを盛り込んだガイドライン(IPW)が制定され、95%以上のブドウ栽培農家やワイナリーがこれに従ってワイン造りを行っています。
南アフリカの気候風土
南アフリカは、ニューワールドの中で最初にヨーロッパ系ブドウ品種の栽培に成功した国。早い段階からワイン造りが定着したのは、その気候風土とブドウ栽培がマッチしていたからとも言えます。南アフリカは、ブドウ栽培に適している高温、乾燥の地中海性気候。特に、ワイン生産の9割が集中している西ケープ州は、南極から流れ込む冷たいベンゲラ海流の影響で低緯度でありながらも冷涼なため、質の高いブドウが育つと言われています。春から夏にかけては、ケープドクターという乾燥した風がブドウを乾燥させ、カビや虫から守ってくれるという特徴もあります。昼夜の寒暖差が激しく、夏の日中は東京と変わらない気温ですが、朝晩はかなり冷え込みます。
南アフリカのワインの特徴
大航海時代にワイン造りの技術が伝わり、ブドウ栽培に適した気候風土であったことからワイン造りが盛んになった南アフリカ。それではどのようなワインが造られているのでしょうか。南アフリカのワインの5つの特徴を紹介しましょう。
バランスの良い味わい
さまざまなタイプのワインが造られており、その味わいをひと言で表現するのは難しいのですが、繊細で上品なフランスワイン、パワフルで重めのアメリカワインと比較すると、ちょうど2つのワインの中間に位置するようなバランスの良い味わいです。傾向としては、「フルーティーでしっかりとした果実味が楽しめる」「酸味とほのかな甘みを兼ね備えている」といったタイプが多いかもしれません。また、フランスワインが好きな人は南アフリカのワインを好む傾向にあるとも言われています。
地球にやさしいワイン造り
南アフリカのワイン産地の9割以上が世界自然遺産に登録されているのに加えて、WWF(世界自然保護基金)がワイナリーの自然保護状況を査定していることもあり、産地全体で自然を保護しながらのワイン造りが行われています。農薬や殺虫剤に頼らないワイン生産、リサイクルの徹底など、世界で最も環境を意識したワイン生産地なのです。また、2010年のヴィンテージからサステナビリティ認定保証シールがボトルに貼られています。これは、決められた環境基準を満たしているかを証明するシールであり、世界でも南アフリカが最初に導入したと言われています。
酸化防止剤が少ないワイン
1998年にできたガイドライン(IPW)で、自然保護の観点から減農薬や減酸化防止剤が徹底されている南アフリカ。1本のワインにおける酸化防止剤の使用量は、EUのオーガニックワインの酸化防止剤の使用基準以下で、日本やフランス、オーストラリアなどの約半分と言われています。ケープドクターと呼ばれる風がブドウをカビや虫から守る役割を果たしているのも、酸化防止剤の使用量が少ない理由の一つです。また、1haあたりのブドウ収穫量を減らし、果実味とブドウの力を凝縮した質の高いブドウを作る努力をしているからという説もあります。酸化防止剤が少ないことによって、二日酔いになりにくいとも言われており、環境はもちろん、人にもやさしいワイン造りが行われているのです。
コストパフォーマンスの良さ
世界中でそのコストパフォーマンスの良さが評価されている南アフリカワイン。ウォールストリートジャーナルでも、「南アフリカの高級ワインは世界最良のコストパフォーマンス」と取り上げられたことがあります。日本円で見てみると、世界的コンクールで高評価を獲得したワインを2000円前後で飲むことができます。地球にも人にもやさしい丁寧なワイン造りが行われていてこの価格とくれば、コスパの良さは十分に伝わりますよね。
生産者を守るフェアトレードワイン
南アフリカでは、生産者を守るため積極的にフェアトレード認定のワインを造っています。フェアトレードとは、貿易などの取引で立場の弱い生産者、供給側が不当な価格で買いたたかれないよう、低賃金労働にならないよう取り計らう仕組みです。2013年のデータでは、世界で販売されたフェアトレードワインの65%は南アフリカ産と発表されています。
南アフリカのワイン産地
南アフリカでは5つの州でワイン造りが行われていますが、9割が西ケープ州に集中しています。その中でも主だったワイン産地を紹介しましょう。
ステレンボッシュ
南アフリカのワイン産業の中心地。山々に囲まれた地形、ブドウ栽培にちょうど良い降水量、水はけの良い土、多様性のあるテロワール(ブドウ畑を取り巻くすべての自然環境)に魅了された醸造家たちが集まり、今では170ほどのワイナリーが点在しています。カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノタージュ、シャルドネ、シュナン・ブラン、ソーヴィニヨンブランなど、南アフリカの主要品種が多く栽培されています。また、ワイン造りだけでなく、ワイン産業に関わる人材育成を行うための大学や教育機関もある町です。
フランシュック
フランス移民が多く、フランスの影響を強く受けた町並みが特徴。また、南アフリカ屈指の美食の町としても知られています。ソーヴィニヨンブランやセミヨンなど国際品種が多く栽培されています。樹齢の高いセミヨンの古樹(111年以上)が残っており、プレミアムワインも造られています。
ウォーカーベイ
南アフリカ屈指の高級ワイン産地。海に面しており、南アフリカで最も冷涼な気候です。シュナン・ブランやピノタージュ、ローヌ品種が多く栽培されているほか、土壌に粘土質が多く含まれていることから、シャルドネやピノ・ノワールも栽培されています。
ケープ半島(コンスタンシア含む)
喜望峰で有名なケープ半島。南アフリカで最も古いワイナリー「コンスタンシア」があるコンスタンシア地区で造られた、デザートワイン「ヴァン・ド・コンスタンス」は世界的にも有名なデザートワインです。また、良質なソーヴィニヨンブランの産地としても知られています。
南アフリカで栽培されているブドウ品種
さまざまな品種が栽培されており、ブレンドワインも多く造られている南アフリカワイン。ブレンドワインの中でも、赤はピノタージュ、白はシュナン・ブランを主体としたケープブレンドが人気を博しています。
白ワイン用品種
シュナン・ブラン
フランスのロワール地方原産のブドウですが、フランス産に比べると酸がマイルドなのが南アフリカ産。グレープフルーツやライム、トロピカルフルーツのような果実の香りが感じられます。バランスの良さが高く評価され、同じ品種で選ぶならフランス産より南アフリカのワインを選ぶ人も多いと言われています。
シャルドネ
しっかりとした酸を持ちあわせている品種ですが、樽熟成させることで味わいに変化が出ます。フランスのシャルドネに比べてコスパが良いと言われ、この品種も南アフリカ派が数多くいます。
ソーヴィニヨンブラン
フランスのほか、ニュージーランドもこの品種の有名な産地ですが、南アフリカでも遜色ない質の高いものが栽培されています。
赤ワイン用品種
ピノタージュ
南アフリカの気候条件に合うよう開発された品種で、1925年に誕生しました。他国ではほとんど生産されないため、南アフリカの重要な品種とみなされています。濃すぎず、軽すぎず、バランスの良い味わい。熟成も期待できる品種です。
カベルネ・ソーヴィニヨン
南アフリカで最も広く栽培されている品種。オーストラリアやカリフォルニアのものに比べると、果実味の凝縮度が少なく、ハーブの風味が感じられます。熟成したカベルネ・ソーヴィニヨンは、世界的にも高く評価されています。
シラー
最近は、ほかの国とは違った独自の味わいを表現する南アフリカ産のシラーが増えており、主に重たいシラーとエレガントなシラーの2タイプに分けられます。特にエレガントなシラーは、著名な評論家の間でも高評価を得ています。
まとめ
南アフリカワインが、地球にも人にも配慮して造られているワインであることはお分かりいただけたでしょうか。小規模ながらも真摯にワイン造りと向き合うワイナリーがたくさんあり、おいしいワインがたくさん造られています。その取り組みの素晴らしさはもちろん、味わいのバランスの良さ、そしてコスパも◎な南アフリカワイン、まだという方はぜひお店への導入も検討してみてください。