日本酒の四季とは?季節ごとの違いや特徴を解説

お酒の知識

日本には四季があります。季節によって移り替わる景色や伝統行事、そして旬の味覚。日本ほど四季がはっきりしている国はめずらしく、四季折々の素晴らしさがあります。実はこの「四季」、日本酒にもあることをご存知でしょうか。今回は日本酒の季節ごとの違いや特徴について詳しくお伝えします。

日本酒作りの四季について

日本酒の四季についてお伝えする前に、まずは日本酒にとっての1年を簡単におさらいしておきましょう。

日本酒の1年は田植えから始まります。田植えは5月頃から始まり、秋には収穫を迎えます。そして、だんだん寒くなる10月頃から収穫されたお米で酒作りが始まります。収穫したお米で今年もまた美味しい日本酒を作ろうという気持ちを込めて、昔ながらの酒造年度の年明けである10月1日の日本酒の日に全国の酒蔵で乾杯が行われます。

そして、酒作りは1月、2月と寒い冬に最盛期を迎え、3月には終わります。これが元々の「寒作り」という寒い時期に作る日本酒の1年間です。

今は、四季醸造といって年間を通して酒作りを行う酒蔵も増え、四季でなくても真夏を除いた春と秋と冬の三季醸造しているところもあります。

四季や三季醸造をする利点は常にフレッシュな状態のお酒を届けられることです。

年中、できたての無垢な状態で無ろ過生原酒をお客様に届けたいという蔵は冷蔵庫で蔵を囲って真夏でも冬と同じ環境で酒を作り、お客様にすぐに届けられるようにしています。また、手作りで少量入りの商品を本数多く作りたい場合も、四季醸造や三季醸造で作ります。

ちょっと裏話!

歴史を紐解くと、昔の杜氏は冬場限定のスタッフとして蔵に派遣されていたのが一般的でした(冬以外は農家として働いていました)。今はどこの蔵にも当時が在籍しているため、四季醸造が可能になっています。

また、ほぼ住み込みで寝ずに醪と戦っていた時代とは違い、醸造技術や醸造設備の進歩によって、労働環境も見直されつつあります。現在では会社員とほぼ変わらず定時で帰れる蔵もあるようです。

冬酒

冬酒は別名「しぼりたて新酒」と呼ばれます。新酒の特徴は、若々しい華やかな香りとさわやかな味です。

中でも「にごり酒」は冬に降る雪を思わせることから、この季節ならではのお酒として人気があります。

一般的に、日本酒は保存期間を延ばすために2度火入れをして出荷されます。しかし、しぼりたての新酒は火入れをせずに出荷され、しぼりたての期間も12月から3月と限られています。火入れをしていないしぼりたては酵母が生き続けているので、しばらく冷蔵庫に保存しておくと味がまろやかになり、その変化も楽しめます。 しぼりたて新酒は、しぼり出されたタイミングにより3つのタイプに分けられます。

あらばしり

漢字では「荒走」「新走」などと書かれます。あらばしりは、もろみから日本酒と酒粕を分離するときに最初に出てくる部分です。搾り始めなので、「おり(澱、滓)」と呼ばれる浮遊物が混じりやすく、アルコール度数が低いのが特徴。ピリッとした切れ味があり、香りもとてもフレッシュです。

なかばしり

なかばしりはあらばしりが出た後、途中に出てくる透明な部分です。味も香りもバランスがとれており、飲みやすいのが特徴です。

責め

責めは圧力をかけて絞り切った部分です。アルコール度数が高く、複雑で濃厚な味わいです。雑味が多く、複雑な味わいなるため、中には飲みにくいと感じる人もいるようです。

しぼりたて新酒の中でも、プレミアムなものを提供するなら「立春朝搾り」がおすすめです。

しぼりたて新酒自体、飲める期間が限られていますが、「立春朝搾り」は、その中でも年に1回、立春の日だけ手に入れることができます。「立春朝搾り」は2月4日に酒質を最高の状態にするために醪発酵に細心の注意を払う手間のかかる新酒です。2月4日早朝に搾り、すぐに瓶詰めして販売し、その日のうちに飲んでしまう貴重な新酒です。 他にも、小寒から立春までに作られた純米吟醸のあらばしりという、新酒で最も美味しい部分だけを一滴の水も加えない原酒のまま、ろ過も加熱殺菌もせず瓶詰めした「無垢之酒(むくのさけ)」もおすすめです。

春酒

春酒は「花見酒」とも呼ばれています。他にも「春純米」「春和酒」などと蔵元によっても呼び名が変わりますが、いずれも3月から4月頃までのお酒を指します。花見や歓送迎会など、お酒を飲む機会も増えるので日本酒のバリエーションも豊かな時期です。この時期のお酒は冬にしぼられて出荷され、飲みやすく、春の訪れや花見を意識したピンク色のボトルやラベルなどかわいらしい外観も特徴的です。中には、ボトルやラベルだけでなく、赤色酵母を使って醸し出したお酒自体がピンク色の日本酒も。お酒のピンク色がはっきりと見える酒器で見た目もかわいらしく工夫して提供すると、女性のお客様に喜んでもらえそうです。

夏酒

5月から7月頃の日本酒は夏酒と呼ばれます。夏酒は冬に絞った日本酒を夏まで貯蔵して出荷されるので、蔵元の貯蔵の仕方によってその味が変わります。蔵元ごとの味を楽しめるように提供すると単価アップも見込めます。

また、この季節は生酒が美味しい季節でもあります。日本酒は寒い冬に仕込まれ、春にでき上がります。

普通は火入れをしますが、生酒は火入れをせずフレッシュな状態で出荷されます。5月ごろになると各地で生酒が販売され、期間限定でしか入手できないものが多いので旬なお酒と言えます。

他にも、白ワインのようなスッキリした味わいの夏酒や、オンザロックで味わいたい濃い風味の原酒夏酒。夏バテのお疲れ肌も回復する「飲む美容液」とも言われる微炭酸活性にごり夏酒など、各酒蔵が独自の「夏らしさ」を意識して、工夫を凝らして醸し上げています。様々な夏酒を提供できれば、お客様も飽きることなく夏の日本酒を楽しむことができるでしょう。 夏酒は味わいが爽やかで、飲みやすいようにアルコール度数が低めに設定されています。ボトルでも夏らしさを感じられるように、清涼感を醸し出すブルー系のボトルも多くなります。ボトルだけでなく、クチナシの色素を加えてお酒自体をブルーにした日本酒もあります。爽やかな色味の酒器を使うのはもちろんですが、せっかく綺麗なブルーの日本酒は、クラッシュアイスを詰めたグラスに注いでカクテル風にお洒落に提供するのも良いですね。

秋酒

秋酒は「ひやおろし」や「秋上がり」とも呼ばれ、9月から11月頃の日本酒を指します。秋のお酒と言えば、「ひやおろし」と言われるほど、日本酒が美味しい季節です。

ひやおろしは、春先にしぼったお酒を夏の間品質が変わらないように涼しい蔵で保存し、気温が日本酒と同じ温度になったら瓶詰をして、秋ごろに出荷するお酒です。

ひやおろしは貯蔵する前には火入れをしますが、出荷前には火入れをしないので生貯蔵酒に分類されます。生貯蔵酒の特徴はフルーティーな香りが残されており、旨みがふくよかでまろやかな味わいです。

生貯蔵酒の中でも、ひやおろしは春から秋まで熟成されているので、さらに甘みやコクが増しています。その特徴から秋に出てくるひやおろしを楽しみにしている日本酒好きの方も多くいます。

またひやおろしは出荷の時期によって呼び方が3つに分けられます。

夏越し酒(なごしさけ)

9月頃に出回り、濃厚かつ軽快でまろやかな味わいです。おすすめの飲み方は冷やすか、常温ですが、日本酒を冷やすことでできるシャーベット状態のお酒(みぞれ酒)もおすすめです。 この季節はまだ「夏の生酒」も楽しめるので、「夏越し酒」との飲み比べも楽しめます。

秋出し一番酒(あきだしいちばんざけ)

10月頃に出回り、まろやかで深い味わいです。おすすめの飲み方は人肌に近い温度(約35度~37度)の人肌燗です。温めると甘みが増すため、米の香りが引き立ち、香りがふわりと広がります。もちろん、冷やでも、燗でもどちらも美味しく飲めます。

晩秋旨酒(ばんしゅううまざけ)

11月に市場に出回り、豊醇さ、旨味、濃密なとろみが特徴です。おすすめの飲み方は人肌よりちょっと熱いなと感じる(約40度)「ぬる燗」です。香りが立ち、まろやかで円熟された甘みが引き出されます。

ひやおろしは「ひや」、つまり常温の状態で出荷するのでそう呼ばれます。同じひやおろしでも秋に熟成がうまくいったお酒は「秋あがり」とも呼ばれます。秋あがりは、冬に完成したお酒を春に火入れしてから、貯蔵タンクに入れて夏を越させ、熟成させたお酒です。

また、「秋あがり」の定義として、ひやおろしが1度の火入れのみなのに対して、貯蔵前に1回、瓶詰めする時に2回目と2度の火入れをした日本酒のことを指すことがあります。

ひやおろしと秋上がりは風味など少し違うところもありますが、ひやおろしの定義は正確に決められていないため、秋に出荷されている日本酒全般をひやおろしと呼んでいる場合もあります。

まとめ

日本酒は四季折々をお酒で楽しめる粋な飲み物です。日本酒は季節によって商品も飲み方も大きく変わります。お店にお越しになるたびにその季節を感じてもらえるように酒器や提供の仕方を工夫して、お客様と一緒に日本の四季を楽しみましょう。