あえて話しておきたい… ワインのオフフレーバー

お酒の知識

ワインを飲んでいると、ただ『おいしい』だけではなく、その中にたくさんの個性があることに気がつきます。中でも『香り』は、特に個性を感じる要素の一つです。

ワインを造るブドウは農産物でもあり、醸造中はもちろん、瓶詰めされた後の環境によっても様々な影響を受けます。ワインの欠陥の一つでもあるオフフレーバー(ネガティブな香り)も、その様々な影響により表れるのです。

ワインの香りには、いい香りだけというわけでもなく、ネガティブな香りも一緒に混在していることがあります。若干のネガティブな香りでも、人によっては好ましく感じることもあり、自分が認識していない香りならば、なかなか悪い要素を判断できないということも起こりえます。

もし、初めてワインを飲む人が、あまり良くない状態のものを飲んでしまったら、きっと『ワイン=苦手な飲み物』となってしまうでしょう。

今回は、代表的なオフフレーバーの香りの特徴、どこからその香りがやってくるのかを見ていきます。

代表的なオフフレーバー

①ブショネ

ブショネ(Bouchoné)は、コルクを意味するBouchonの形容詞です。

英語ではCorkedと言い、『コルクのような風味がワインに移った状態』を表していますが、厳密にはコルクの風味ではありません。コルクが原因で起こることが多いので、ブショネという名前が付けられています。

◇原因⇒塩素系物質とカビの反応
主な原因物質は、2-4-6-TCA(トリクロロアニソール)という成分です。
コルク・木製の発酵槽・木製の建物を洗浄する際に、ごくまれに塩素が若干残ってしまうことがあります(塩素処理、または塩素系洗剤の使用により)。そこに残っていた塩素系物質と空気中のカビが反応してTCAを発生させます。木製の発酵槽が一槽丸ごとブショネということもありますし、塩素処理した木材を使った建物だった場合は、建物内でTCAが発生することもあるそうです。最近の醸造所は、木材の不使用、塩素処理した材料は使わないなどの対策をしています。TCAは、ほんの僅かですが感染力もあり、1ケースの中に数本のブショネがあった報告もあります。

◇香りの特徴⇒かび・コルク・雑巾・濡れた段ボールのような香り
慣れていないと樽の香りと間違うことがあります。ただ、オーク樽の香りは果実味と調和しますが、TCAからの香りは全く調和しません。果実味も余韻も封じ込めてしまい、割りばしを噛み続けたような後味が残ります。また、シャンパーニュの場合はイースト香にまぎれてしまい、特に、しっかり冷えた開栓直後の状態では判断しにくい時もあります。

◇対策⇒合成コルク・スクリューキャップなどへの変更

②揮発酸

酢酸エチルと酢酸菌が主な原因です。
ワイン中に発生する酢酸エチルは、様々なバクテリアが繁殖・反応した時に副産物として生成されます。発酵前に酸化防止剤(SO₂)の添加量が少ないと、乳酸菌が糖を食べて、乳製品系の香りと酢酸を生成するのです。また酢酸菌自体が作用することもあります。
個人的には、微量の揮発酸ならば、ワインにフレッシュ感と複雑さを与えると考えています。

◇原因⇒様々なバクテリアや微生物の繁殖・反応
◇香りの特徴⇒ボンド・除光液・ビネガー・セメダイン系のツンとした香り
◇対策⇒SO₂の添加

③還元臭

還元状態(ステンレスタンクでの醸造や熟成、なるべく空気に触れさせない造り)が続くと生じる香りです。“硫黄物を含有する心地よくない香り”とも表現され、通称で還元臭と呼んでいます。

酵母は、果汁の中に窒素が少ない状況や、酸素が少ない醸造環境では硫黄物(二酸化硫黄、硫化水素、メルカプタンなど)を排出することがあります。還元臭の原因となる硫黄物に不快な臭いを持つ物質が多いのです。飲む時にグラスを回す、デキャンタージュなどをすれば中和されて本来の香りになりますが、すごく強い還元状態で放置された場合は、取り除くのは困難になります。しかし、『還元は常に悪い』ということではありません。造り手によっては『あえて還元させている』という人もいます。還元臭のあるワインの多くはSO₂を添加していません。SO₂を添加していないと酸化しやすくなるので、還元状態を保ち続けるように調整し酸化を防ぐのです。

ちなみにですが、ポリフェノールやタンニンは酸化しにくい物質なので、それらがブドウに多い年のワインは還元状態になりやすいです。また、シラーはポリフェノールと酸が多いので還元しやすい品種とも言われています。

◇原因⇒SO₂を入れない・澱引きをしない・スクリューキャップの使用・酵母の窒素不足
◇香りの特徴⇒少し硫黄っぽい香り・たまねぎ・ゆで野菜・ゆでたまご・馬小屋のような香り
◇対策⇒SO₂の添加・発酵中に窒素化合物を添加

④酸化

酸化熟成は正しい熟成の一つなので、必ずしもネガティブではありません。
もちろん、やり過ぎてしまえば味は劣化しますが、酸化を利用して造られているワインや、シェリー、マデイラなどもありますので、酸化具合のバランスによってはおいしく楽しめます。

◇原因⇒アルコールの酸化
アルコールを酸化させ、アセトアルデヒドという物質を生成します。色調を茶褐色へと変化させます。

◇香りの特徴⇒溜まり醤油のような香り・白ワインであればへーゼルナッツやクミンのような風味

⑤フェノレ(ブレット)

一部のフェノール化合物による品質劣化が原因です。
また、ブレタノマイセス(腐敗酵母)も関与していて、海外ではブレットとも呼ばれています。アルコール発酵後にSO₂を入れないとブレタノマイセスの発生、増加することがあります。フランスでは、南部の暖かい地域での発生が多くありましたが、近年はブルゴーニュでも発生しています。南部の産地では、暖かいだけではなく、古い樽を使い続けるという風習があるので、より発生しやすいことがありました。

◇原因⇒一部のフェノール化合物・ブレタノマイセス
◇香りの特徴⇒ゴム・救急箱・馬小屋のような香り

馬小屋のような香りは、微量ならワインに複雑味を与えます。クラフトビールでは、あえてブレタノマイセスを入れて醸造することがあります。

◇対策⇒SO₂の添加

⑥Gout de Souri (グー・ド・スーリ、ねずみ臭、英語でMousy)

ブレタノマイセスや一部の乳酸菌を含むバクテリア、酸素との接触も原因とされていますが、メカニズムの全ては解明されていません。余韻に特有の味や香りが明確に表れ、抜栓して時間が経てば経つほど強くなっていく傾向があります。
SO₂が防ぐので、SO₂を適量入れているワインからは出てきません。ただ、SO₂を入れていないワイン全てから出てくるかというと、そういうことでもありません。

◇原因⇒ブレタノマイセス・微生物・酸化
◇香りの特徴⇒豆・ゆでた小豆

ワイン本来の味わいを消してしまうほどの、強く印象に残る余韻なので、この風味があることは好ましくないです。

◇対策⇒SO₂の添加

オフフレーバーが少しでもあったらNGなの?

前述にも少し書きましたが、『オフフレーバーがある=NGなワイン』というわけではありません。
オフフレーバーを、それ単体で嗅げばいい香りではありません。しかし、ワインの中に少しだけ含まれるのなら、必ずしもオフではないのです(ブショネは除きます)。

シャネルの№5という香水は発売以来長く支持されています。この香水は、単体ではネガティブな印象の香りをあえて混ぜることで、より魅力的な香りを造り出したことで有名です。
オフフレーバーも一緒です。強すぎれば美味しい状態にはなりませんが、微量であれば複雑味などのポジティブな要素を与えることもあります。

同じ香りであっても、人によっては不快な香りが、好ましい香りとなることもあります。よりお客様の好みに合ったワインを提供するために、できる限り客観的に香りを把握するということがテイスティングの中で重要になってきます。オフフレーバーがワインに存在していることに気づき、存在する理由を知ることが大切です。