【いまさら聞けない】日本酒の精米歩合について

お酒の知識

日本酒の主な原料は米と水です。

原料がシンプルなだけに、一つ一つの原料や製造方法によって香りや味わいが大きく変わってきます。
その決め手となる一つが『精米歩合』です。

精米歩合とは

精米とは『米の表面を削ること』で、精米歩合とは『玄米に対する白米の重量の割合』です。

普段食べている白米は、玄米の表面を削って糠を取り除いた部分。酒造り使う酒造好適米も、食べる米と同じように玄米の外側を削ります。酒造りでは、米を削ることを『磨く』とも表現し、『米を磨いて”残った部分の割合”はどれぐらいか』が示されています。

食用米の精米歩合はおよそ90%、玄米の約10%を磨いています。一方で、酒造りに使うお米は食用米と比べるとさらに磨かれた状態です。吟醸酒の精米歩合は60%以下、酒米を削って外側の40%は取り除き、中心部分の60%を使って酒造りを行います。さらに、大吟醸酒は50%以下に磨くことがそれぞれ定義されており、米の半分以上を磨いていることになります。

米の表面部分には、タンパク質・脂質・でんぷんなどの栄養素があります。これらは、酒造りにおいて雑味の原因とされているのです。栄養素が多いと酵母が活発に働きすぎてしまい、完成したお酒に雑味が増え、香りも悪くなってしまいます。

しかし、精米歩合が低いほど酒質が良くなるのかというと、そうとは限りません。香りは立ちやすくなりますが、米の持つ本来の旨味が無くなってしまうこともあります。

『どのようなお酒を造っていくのか』に合わせて米の表面を磨いていくのです。ただ糠だけを削るのではなく、『日本酒の味わいの調節』のためには、米の白い部分も削っていきます。中心に近い部分の『芯白』を使ってお酒を造っていくのです。

※削った部分そのものを表すのは『精白率』と呼び、精米歩合70%と精白率30%は、同じ割合を表しています。

なぜ味が変わるの?

その理由は、お米に含まれるタンパク質・脂質・でんぷんの3つの成分が関わってきます。

それぞれの成分は『麹』の働きにより、でんぷんは『糖』になり、その糖を酵母が食べることでアルコールが生まれます。タンパク質は『アミノ酸』に変化しお酒の旨味となります。脂質は脂肪酸に分解されます。

タンパク質や脂肪は米の表面部分に多いので、一般的にはたくさん磨いた米ほどスッキリとした味わいのお酒になります。磨きが少ない米で造ると、味が濃く旨味が多いお酒になります。多すぎれば雑味の原因になりますが、適量であれば旨味の素になるのです。

精米歩合による香りの変化

日本酒の香りは『酵母』の影響によって表れることが多いのですが、米の成分も香りに影響を与えています。精米歩合の低い米から造ると、華やかで香り高い日本酒になるといわれています。反対に、精米歩合が高い米から造られる日本酒は、香りは抑えられ穏やかな米本来の香りに仕上がります。

この『華やかで香り高い日本酒』には『酢酸イソアミル』という成分が関わってきます。バナナの香りに例えられる吟醸香の一つで、タンパク質を分解したアミノ酸から生成されます。

「あれ? 精米するとタンパク質が減るので、それを元にする酢酸イソアミルも減るのでは…?」と思う方も多いでしょう。ここでポイントとなってくるのが『脂質』です。

脂質には酢酸イソアミルを封じ込める効果があります。精米することで、香りの元となるタンパク質が減ると同時に、それを封じ込める脂質も減るので、フルーティな香りが表れやすくなるのです。さらに、精米することでタンパク質はゆるやかに減っていきますが、脂質は急激に減少します。脂質はお米の表面部分にしかありません。表面から約50%を磨くと脂質はほぼ無くなるとされています。

固有の香味を必要とする、大吟醸の精米歩合が50%以下と定められているのには、『香り成分を抑える脂質を取り除く』という理由もあるのです。精米歩合50%の大吟醸酒は、クリアーで芳醇な香りが特徴といえます。そして精米歩合70%の純米酒であれば、穏やかでコクのある香りのお酒が多くなります。

精米の方法

味わいや香りを大きく左右する精米歩合。
理想のお酒を造るために、精米方法にもあらゆる技術や工夫が施されています。

①球形精米(普通精米)

一般的な精米方法で米粒が球形に磨き上がります
厚みや幅よりも長さを削ることを優先し、細長い米は丸くなっていきます。精米時間を短縮するために広く使われている方法です。しかし、雑味の原因となる栄養素は米粒の表面部分から中心に向かってほぼ等濃度で分布しているので、長い部分からは必要な成分まで削られ、厚い部分からは不要な成分が残ってしまう欠点があります。

②原形精米

原形精米は、お米の元の形に限りなく近い状態で磨き上げる精米方法です。
米の回転軸や磨き方に工夫を施し、○%精米をする場合、長さ・幅・厚みがすべて○%で磨かれるようにしたものです。ただ、表面から同じ割合で磨かれる原形精米でも、実際には若干の誤差があり、たんぱく質の除去という部分では完全ではないそうです。

③扁平精米(等圧精米)

扁平精米は、どの部分も表面から等しい厚さに磨く精米方法です。
米粒は平らな扁平型に磨かれます。精米機のロールの回転速度を落とし、排出口の圧力を下げることで、不要部分を的確に削ることができます。他の精米方法より数倍以上精米時間を要するため、電気代や精米スケジュールの見直しなどの課題は残ります。

まとめ

酒造りの技術は年々向上し、精米歩合が10%以下の日本酒も造られています。同時に、お米の個性をより活かそうと、できるだけ米を削らずに精米歩合80%以上の日本酒を造る酒蔵も増えてきています。
精米歩合による違いは、味や香りの違いだけでなく、『どのようなお酒を造っていくのか』という造り手の思いも感じ取れます。精米歩合から日本酒を選んでみることも、お気に入りの1本を見つけるヒントになるはずです。