これって熟成?劣化?日本酒の熟成について解説!

お酒の知識

昨今の肉や魚の“熟成ブーム”により、日本酒にもその兆しがみられるようになりました。長期熟成=ビンテージというと、ワインや年代物のウイスキーを連想しますが、実は日本酒にも熟成という概念があります。熟成された日本酒は古酒とも呼ばれ、その歴史は古く、江戸時代には誕生していたと言われています。熟成ブームに伴ってその良さが見直されるようになり、その市場は徐々に拡大しています。今回はそんな日本酒の熟成について、劣化との違いと併せてご紹介します。

日本酒の劣化とは?

日本酒の熟成について知るために、まずは日本酒の劣化についてご説明します。

そもそも日本酒はアルコール度数が高いので、保管環境が整っていれば基本的には腐りません。そのため賞味期限の表示義務もありません。しかし、いくら賞味期限がないといっても、正しく保存しなければ劣化は進んでいきます。味や香りが「不快」に感じられる場合は劣化しているといえるでしょう。色や味、香りで判断が難しい場合は、熟成酒特有のトロリとした粘性があるかどうかを基準にすると良いでしょう。粘性がなく、さらりとしている場合は劣化している可能性があります。

日本酒を劣化させる原因は?

日本酒を劣化させる原因は大きく分けて3つ。

(1)紫外線
(2)熱
(3)酸化

これらの影響を大きく受けると、日本酒の劣化が進んでいきます。それぞれどのように変わってしまうのでしょうか。

(1)紫外線

日本酒が紫外線の影響を受けると、色が黄色に変化します。この変化は熟成にも共通して見られますが、紫外線の影響が大きくなると「日光臭」と呼ばれる臭いが発生します。ここが熟成と劣化との大きな違いです。
この「日光臭」の主成分はメルカプタンで、「焦げ臭」や「獣臭」とも呼ばれます。分かりやすい例を挙げると腐った玉ねぎのような臭いがします。
「日光臭」という言葉から、日本酒にとって日光が害になることは想像しやすいのですが、実は室内照明も紫外線を出している場合があるので注意が必要です。冷蔵庫内にも照明がついているので、保存するときは新聞紙やアルミホイルにくるんで保存しましょう。

(2)熱

熱も日本酒にとっては大敵。温度が高い場所で保存された日本酒からは、「老香(ひねか)」と呼ばれる臭いが発生します。日本酒が劣化することを「老ね(ひね)」と呼ぶことから、「老ねた香り」という意味で老香と呼ばれるようになりました。この臭いの主成分はソロトンやポリスルフィドなどで、ツンとした臭いがします。特に、加熱処理をしていない生酒は冷蔵保存をしていても老香がする場合があるので注意が必要です。

(3)酸素(酸化)

日本酒は他の飲み物や食べ物と同じで、開封した瞬間から劣化が進みます。酸化が進むと、苦味や酸味が発生し、香りも鼻にツンと来るような酸っぱい香りに変化します。そのため開栓後は冷蔵保存で3~5日以内に飲みきるのが理想と言われます。

空気に触れた部分から劣化が進みますから、保存するときは横に寝かせず、縦置きで保存するようにしましょう。縦置きで空気に触れる面積を狭くすることで酸化を遅れさせることができます。

また、常温で販売している日本酒は比較的劣化しにくくなっています。これは低温殺菌(火入れ)を2回行っているからです。一方で、冷蔵で販売している生酒などのお酒は劣化しやすくなっています。それは生酒が加熱されておらず、お酒の中に酵素や微生物がそのまま残っているからです。

日本酒の熟成とは?

熟成とは、適当な温度や湿度などの一定条件のもと、食品を長時間かけてゆっくりと化学変化させることを指します。熟成させることで、その食品のうま味や風味が増します。日本酒も他の食品と同様に、熟成させることで味わいが深くなりコクが出ます。

熟成された日本酒の代表的な特徴は

(1)熟成香(ハチミツや木の実、ドライフルーツ、カラメルなどに似た香ばしい香り)
(2)独特の甘味をもち、ウイスキーやブランデーを思わせるような芳醇な味わい
(3)色は薄茶色や琥珀色
(4)トロリとした質感があり、粘性が高い

これらの特徴をもつ日本酒を「熟成古酒」または「熟成酒」といい、近年日本酒ファンから注目されています。

熟成古酒の熟成方法

日本酒は常温熟成、低温熟成、高温熟成など、酒蔵によってさまざまな方法で熟成されます。

熱が日本酒の劣化を促すのですから、高温で熟成するほど熟成のスピードが早く変化も大きいものになります。

常温熟成は読んで字のごとく、常温で熟成を促すもの。お酒に適度にダメージを与えながら熟成させていきます。多くの日本酒は常温熟成によって熟成されます。

低温熟成は、最近は増えてきた熟成方法で、冷蔵庫などで温度を下げてゆっくりと熟成させるものです。熟成が進むか進まないかくらいの温度で熟成させるため、熟成酒独特の黄色い色がつかず、パッと見ただけでは普通の日本酒と区別がつきません。

反対に一気にお酒の温度を上げて熟成させる方法を高温熟成といいます。温泉の熱を利用して高温熟成させる熟成酒なんかもあり、各酒蔵が特色を出しています。

熟成古酒のタイプと適温

熟成古酒は熟成の仕方や熟成温度によって淡熟、中間、濃熟の3つに分けられます。それぞれのタイプごとに適した温度で飲むことで、熟成古酒のおいしさを最大限に引き出すことができます。

淡熟タイプは10度から15度が適温といわれています。中間タイプ、濃熟タイプは基本的に常温がおすすめです。中間や濃熟タイプについては、少し冷やしたり温めたりしても美味しく飲むことができます。お客様の好みや熟成古酒の個性に合わせて提供しましょう。

熟成古酒の熟成期間

熟成期間についての定義はさまざまですが、熟成古酒を推進する「長期熟成酒研究会」では、『満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒』を熟成古酒と定義しています。しかし、日本酒における熟成古酒の定義は法的には決められていませんので、2年寝かせて熟成させたお酒を「古酒」として販売する蔵元もあれば、10年以上寝かせて成熟させて販売する蔵元もあります。 保存温度や保存容器に気を付ければ、オリジナルの熟成古酒を作ることもできます。純米酒や本醸造でしたら、7年~8年熟成させると飲み頃になるとされています。保管条件がうまく合えば数十年熟成させることもできますので、お店オリジナルの熟成酒を提供してもおもしろいかもしれません。ちなみに吟醸酒の場合はさらに長い熟成期間が必要とされています。

熟成古酒の提供の仕方

熟成古酒は他の日本酒と同様にそのまま飲むことが多いですが、ソーダ割りやカクテルなどでも美味しく飲むことができます。お客様の好みや古酒の味わいに合わせた飲み方で提供しましょう。また、熟成古酒の色や味わいを生かせるような工夫も大切です。熟成古酒を提供するときに一番おすすめする酒器はワイングラスです。酒器をワイングラスにすることによって、その芳醇な香りを堪能することができ、熟成古酒特有の綺麗な琥珀色も楽しむことができます。

熟成酒とスイーツとの組み合わせも人気があります。特に熟成古酒×チョコレートの組み合わせは、ブランデーとチョコを合わせているような大人の味わいで人気があります。他にもアイスクリームや和菓子などとも相性が良いので、デザートとペアリングしての提供もおすすめです。熟成した日本酒というと「大人の男性」をイメージしがちですが、スイーツと組み合わせることで、若い女性にも熟成酒を楽しんでもらえそうです。

まとめ

熟成古酒はその美しい見た目や豊かな香りなど、新酒にはない魅力にあふれています。長い年月を経て醸される味わいをストーリーと共に楽しんでいただきましょう。その熟成された時間を自分の人生に重ねながら、ゆっくり楽しんでもらえるような空間も一緒に提供できると良いですね。