”鮨シャンのすすめ” 鮨とシャンパーニュの相性

お酒の知識

今日はワインと料理の相性のお話です。

『魚には白ワイン、肉には赤ワイン』昔から言われてきている料理とワインを合わせるときのセオリー。もはや常識のように言われてきておりました。ただ、実際のところは、肉なのか魚なのかで分けるより、素材の色や調理法、使う調味料によって合わせるワインを考えることのほうが多いです。肉でも鶏肉や豚肉など白っぽい肉なら白ワイン、魚でもマグロやカツオなど赤身の魚であれば軽めの赤ワインと一緒に楽しめます。

ワインと料理の組み合わせを色々と調べていますと『鮨シャン』という言葉が目に入ってきました。鮨とシャンパーニュを一緒に楽しむことの略称なのですが、これは単なる略称ではなく、それぞれがお互いを引き立たせあう絶妙な組み合わせのことだと考えております。
実際に体験した機会は少ないですが、今回はなぜ自分がこう考えているのかを言葉にしていきます。

まずその前に、シャンパーニュって?

鮨との相性を考える前に、シャンパーニュとは何者なのかを簡単に説明します。

フランスで最北のワインの産地であるシャンパーニュ地方。ブドウが栽培できる北限ギリギリ、冷涼なこの地方で、伝統的に造られるスパークリングワインだけが『シャンパーニュ(シャンパン)』を名乗れます。使用されるブドウ品種は、主に白ブドウ品種はシャルドネ、黒ブドウ品種はピノ・ノワール、ピノ・ムニエです。

シャンパーニュの醸造方法は途中までは白ワインと同じですが、「瓶内二次発酵」という工程を経て泡を発生させ、瓶の中で「15ヶ月以上」は熟成しなければならないと法律で義務付けられています。熟成期間中、最初は横に寝かせて保管し、少しずつ瓶を回しながら瓶の口が下になるように動かしていきます。すると、発酵で生まれた澱が瓶の仮栓のところへ集められていきます。その後、瓶の口を凍らせ仮栓を外すと、気圧により凍らせた澱が自然と飛び出します。最後にワインの原液と糖分を混ぜた「門出のリキュール」を補充し味わいを整え完成します。このように、非常に手間と時間がかかる熟成期間の中で、元々白ワインだったワインが瓶内二次発酵により、きめ細かい泡立ちが生まれシャンパーニュとなるのです。

他のスパークリングワインとの違いは、そのきめ細やかな泡立ちはもちろんですが、口に含んだ瞬間に鼻孔に広がる華やかで上品な香り。爽やかでキレがありながらも複雑な余韻が続く、飲みごたえのある味わいです。

またシャンパーニュ地方では、白ブドウだけで造られたシャンパンを「ブラン・ド・ブラン」、黒ブドウだけで造られたシャンパンを「ブラン・ド・ノワール」と呼んでいます。
造り手やスタイルにもよりますが、前者は、爽やかで辛口の味わいに白ブドウならではの柑橘系の香りとシャープな酸味が特徴です。後者は、黒ブドウがもつ華やかな香りと芳醇でボリュームのある味わいが特徴です。

鮨とシャンパーニュが合う5つの理由

それでは、鮨とシャンパーニュの相性の良さがどこからやってくるのかを考えていきます。

アミノ酸が多い=シャンパーニュは旨味のある液体

シャンパーニュは熟成過程で酵母と長期間触れているため、通常のワインよりも旨味成分であるアミノ酸がたっぷり含まれているという特徴があります。魚を熟成させたときに生まれる旨味成分もアミノ酸の一種のイノシン酸です。
シャンパーニュは旨味成分が増えた魚と同調します。また、きめ細かな泡立ちも、旨味がのったネタを受け止めるための一翼を担っています。

熟成により感じるメイラード反応

これも熟成過程の話になりますが、シャンパーニュは長い熟成によりメイラード反応が起こります。メイラード反応とは糖分とアミノ酸やタンパク質が引き起こす化学反応のことで、ナッツやトースト、ご飯のおこげのような香ばしいフレーバーがワインに現れます。この反応は醤油にも共通項があるため、シャンパーニュは『煮切り醤油』や『つめだれ』の風味も同調します。特にブラン・ド・ノワールのシャンパーニュなら、コクのある後味も相まって、より同調の幅が広がります。

鉄分が少ない

ワインと生の魚介類を、一緒に口に含むと生臭く感じるということがあります。この理由は、ワインに含まれる鉄分が、酸化した魚介類の脂肪酸と反応することで起こります。

瓶内二次発酵によって造られるシャンパーニュは、澱と一緒に熟成させている間に、鉄分が澱に吸収されて一緒に沈んでいきます。よって、他のワインと比べて鉄分が含まれている量が少ないのです。スパークリングワインは、全般的に鮨と合わせやすい要素が多くありますが、できれば瓶内二次醗酵のタイプ(シャンパーニュ以外ももちろんOK)をオススメしたいのは上記の理由からです。

酢飯と合う 赤酢ならなおよし

シャンパーニュの持つ『酸味の上品さ・旨味の豊富さ』というのは、シャリとも共通項があります。様々な種類がある食酢には、アミノ酸が豊富に含まれています。職人さんのレシピにより違いがあるのはもちろんですが、すし酢の主構成は米酢と砂糖と塩のはずです。ネタの旨味、煮切り醤油などに合うこともありつつ、シャリとシャンパーニュは『旨酸っぱさ』が同調します。

また、酒粕から作られる『赤酢』は、米酢と比べると旨味に加えてコクも含んでいます。お酒を醸造したときに残る酒粕を熟成させ、酢酸発酵させたものが赤酢です。米酢と比べて酸味がまろやかで、香り高いことも特徴です。食酢が持つツンとした刺激のある香りは、ワインとは合わせにくいのですが、赤酢ならその要素も少ないです。シャリとシャンパーニュの『旨酸っぱさ』+『香りと余韻のコク』を合わせるには、赤酢ならなおよしです。

難しいヨード香もシャリがあれば大丈夫

魚卵に感じる塩気(ミネラル)やウニの持つヨード香は、シャンパーニュにも感じる要素の一つです。魚卵にはミネラルがたくさん含まれております。また、ヨードとは自然界では海水中に多く含まれていて、昆布やワカメなどの海藻類を食べて成長するウニは生物濃縮された結果、濃度の高いヨードが抽出されます。シャンパーニュと合わせるとお互いを引き立てる相乗効果が生まれますが、一歩間違えると生臭みも出てしまいそうです…。そんな時にシャリがいい仕事をしてくれます。シャリのほのかな温かさ、そして甘みがちょうどいい橋渡し役となってくれます。魚卵の持つミネラル感やウニのヨード香、シャンパーニュの複雑な余韻、どちらも穏やかな印象にまとまります。

お任せコースをシャンパーニュ1本で通す

例えばですが、お任せのコースを最初から最後まで一種類のワインで通すのであれば、シャンパーニュでまず間違いはありません。さらに、コースに合わせてシャンパーニュの温度帯を変えたり、グラスを変えて提供すると合わせ方や楽しみ方のバリエーションが増えます。

最初はキリリと冷えたものを食前酒としてお出しし、その後常温に置いておきます。もちろんお客様の好みが一番大事ですが、温度が上がるにつれて開いていく香りや、味わいと泡のテクスチャーの変化も楽しんでいただけます。

ワイングラスの形、大きさを変えてみても同じシャンパーニュですが香りが変わり、ノド越しも味わいも変化します。スタートは口径の細いフルートグラスから。食事が進むにつれてだんだんと口径の大きいものに替えていきます。コースの後半はブルゴーニュグラスなど大きめなグラスを使い、広がっていく果実味や余韻の複雑さを押し出していきます。さらに、コースの終盤にもう一度ワインを冷やして、グラスをフルートグラスに戻し、口の中をキレ味よくリフレッシュさせてコースを〆るということもコースで提供されるネタの順番、味わいの強さ、余韻の長さ、複雑さ、などによってシャンパーニュの味わいの変化を考えていくのです。

お食事のタイミングで温度を変えたり、いろいろな形状のグラスを使う提供方法は、お店のピークタイム中やご自宅では難しい場面もたくさんあると思います。味わいの変化の演出のひとつ、お任せコースをシャンパーニュ1本でさらに楽しむ方法のひとつとして、頭の片隅に置いていたいただければ嬉しいです。

まとめ

簡単にですがシャンパーニュと鮨の相性の良さ、楽しみ方を書いてみました。自分の体験を思い出しながら、調べれば調べるほど奥が深すぎたテーマでした…。

この他にもたくさん要素や、もっと専門的な技術や言葉が、鮨にもシャンパーニュにもあります。探求していくには非常に険しい道のりですが、まずは興味を持ち考えてみること。それが新しく魅力的な提案を生むきっかけに繋がり、楽しく美味しい時間を増やしてくれるはずです。