どうやってペアリングを考えるの?

お酒の知識

「注文したお料理にペアリングでワインをお願いします。」
ワインの注文の際にいまや定番、そして急激に広まっていった、食のトレンドキーワードである『ペアリング』。

今回は、自分が料理とワインを合わせる時に意識していることを文章にしてみました。
お時間ございましたら、どうぞお付き合いくださいませ。

ペアリングとは、言い換えれば『料理とお酒の相性の良い組み合わせ』のことです。

その原点は『郷土料理と地元のお酒を合わせる』ことだと考えています。
各地域で伝統的に使われている食材やスパイス、塩分は昔から変わることなく伝えられおり、それはお酒の造り方においても同じです。長く伝えられている事には何らかの理由があるのです。地域の特性や食材、調理法、お酒の味わい、文化を知ることで、なぜ同じ地域の料理とお酒が合うのか見えてきます。しかし、それ以外にも料理とお酒の魅力的な組み合わせはたくさん存在します。

料理とワインの相性を深めるためには、それぞれをしっかりと考察することが大切です。魚介料理だから白ワイン、鶏肉だからピノ・ノワールが必ず合うというわけではないのです。食材からワインを選ぶことも大切ですが、食材を『どのように料理しているのか』が重要になってきます。その料理の中にどのような風味や食感が存在しているのかを把握しなければなりません。

”味わい”を考えてみる…

味わいは料理にもワインにも必ず存在しています。まず味わいを感じる要素をそれぞれ見ていきましょう。

五味(酸、甘、塩、苦、旨)

味わいは、『酸味・甘味・塩味・苦味・旨味』の『五味』で構成されており、五味は舌で味覚として認識されます。

ちなみに、近年ワインの世界でもよく聞く旨味は、日本人がだし昆布から発見したのが最初です。2000年に舌にグルタミン酸受容体があることが発見され、海外でも注目されています。

刺激(渋、辛)

渋味と辛味は味覚というよりは刺激です。ワインの中のタンニンによって舌が収斂する、乾くように感じることは刺激に分類されます。

フレーバー(香り)

フレーバーも味わいの一つです。フレーバーとは香りのことですが、ここではアフターフレーバーのことも指します。(口の中に入れて飲み込んだ時の香り・余韻が鼻を抜ける時の香り)

フレーバーがないと味わいの詳細はほとんどわかりません。「鼻をつまんで料理を食べると何を食べているのか分からない」という経験はないでしょうか。そのくらいフレーバーというのは非常に重要な存在で、味わいに大きな影響を与えます。

テクスチャー

テクスチャーとは『質感』のことで、料理やワインの場合では『食感』『舌触り』『飲み口』などとも呼ばれます。

ワインの味わいを決める主な要素は、果実味・アルコール・酸・タンニンで、これらはワインのテクスチャーにも影響を与えています。果実味が強いものは口当たりが柔らかく、アルコールが高ければワインは香り豊かでまろやかに感じます。酸味とタンニンはワインの骨格を形成し、それらが強い場合は“ワインが硬い”とも表現されます。また、塩味や苦味(ミネラル)も味覚的に感じられることがあり、ワインの骨格に影響を与えているのです。

これらのことを踏まえて、料理とお酒の組み合わせを考えていきます。

ペアリングの見つけ方

具体的なペアリングの見つけ方をご紹介いたします。料理とワインの相性を考えるときは、以下の4点を中心に組み立てていきます。

同調

香りや味が似ているもの同士を合わせ、引き立てる方法です。最も『合っている』と感じることが多く、よく使用されているペアリングでもあります。さらに、料理の重さとワインのボディを合わせた上でフレーバーを寄せていくと、より相性の良さが感じられます。

例えば、「コショウをしっかりかけたステーキにスパイシーな香りのシラー」「カジキマグロとオレンジを合わせた料理には、柑橘系の香りと程よい果実味があるシチリアの白ワイン」といった組み合わせです。

また、同じ食材でも仕上げにかける調味料やスパイスで、合わせるワインの選択肢を増やすことができます。炭火で焼いた鶏モモ肉をピノ・ノワールで合わせるときは、醤油ベースのタレをかける。醤油の香ばしさとコクが、ピノ・ノワールのフレーバーと同調します。さっぱりとしたシャルドネで合わせる場合なら、ポン酢をかけて柚子の皮を少し散らせば、爽やかな酸味と香りの同調が生まれます。料理とワインの『味わいの方向性を合わせる』ことで、風味や余韻が広がり、一体感が楽しめるのです

対照

似ているもの同士を合わせるペアリングとは真逆の方法です。料理とワインの五味や刺激の中で、あえて味わいが対象的なものを合わせます。味わいを中和してバランスを取るのです。

塩気が強いブルーチーズに、甘口の貴腐ワインを合わせる王道の組み合わせもその一つ。互いの風味を損なわずに、お互いを引き立て合うことができます。この対照のペアリングでも、料理の持つ重さとワインのボディを合わせることが重要です。前述の組み合わせも、ブルーチーズの持つ乳脂肪分の重たさと、貴腐ワインの甘さが乗ったボディあるからこそ成り立ちます。

対照のペアリングは、料理とワインの個性にフォーカスして合わせることが多いです。例えば、「カレーライスとアロマティックな甘口のスパークリングワイン(アスティスプマンテなど)」「クリームソースの魚料理に、柔らかな酸味の赤ワイン(ボージョレのガメイなど)」といったような合わせ方です。異なる香りや味わいの組み合わせは、料理とワインのひと味違う感覚を引き出すこともできます。

五味を揃える

ワインと料理を合わせた時に、五味をバランス良く揃えることで味わいの満足感が生まれます。この合わせ方は、和食や中華料理との相性を考えるときに重宝します。もちろん料理にもよりますが、和食や中華料理は塩味や旨味が主体の料理が多いです。そこに甘味と酸味が主体のワインを合わせることで、五味のバランスが揃えやすくなります。

料理とワインの組み合わせの中に『酸味・甘味・塩味・苦味・旨味』のバランスを意識すると、ペアリングのヒントが見つけやすくなります。

テクスチャーを合わせる

料理とワインの質感に注目します。

同じ肉料理でも、何の肉か、どの部位か、厚さや大きさ、調理方法で食感の違いが生まれます。牛肉を薄くスライスしてサッと焼いた場合と、大きな塊を炭火でじっくり焼いたものでは、食べた時の身質や風味が全く違います。

食感や風味が強い料理は、咀嚼回数が多く口内の滞在時間が長くなります。食べた時の咀嚼回数と口内の滞在時間はワインを合わせる上で重要なポイントになります。食感が柔らかい料理には果実味が豊富なワイン、しっかりと噛み締める料理にはタンニンの強いワインが合わせやすいのです。逆に咀嚼回数が少ないほど、口内の滞在時間は短くなります。口に入れた瞬間からとろけるような食感の料理(野菜のムースなど)には、ボリューム感やタンニンは必要ありません。軽やかな飲み口で、キレのある後味のスパークリングワインなどが合わせやすいです。

また、温度もテクスチャーを形成する大事な要素です。暖かい料理を食べる時に、キンキンに冷えたワインを飲むと口の中に違和感が生まれます。そのワインを美味しく感じられる温度帯の中ではありますが、料理の温度にワインの温度をなるべく近付けて提供すると、テクスチャーが揃い、口の中でワインと料理がなじみやすいです。幅広い温度帯で楽しめる日本酒は、このテクスチャーのペアリングで大活躍します。

まとめ

料理の世界も、お酒の世界も日々変化しています。ペアリングについて理解を深めることで、みなさまの食の時間が豊かになることは間違いありません。料理にどんなワインを合わせるのかを考える時間は、食事の楽しみのひとつでもあります。

ペアリングとは本当に奥の深い世界ですが、このブログがきっかけで、皆様の食事の時間に楽しみが増えれば幸いです。

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