ホントに飲み頃!? ワインの熟成とは…

お酒の知識

世の中には様々なワインが存在していますが、せっかく飲むのなら、どんなワインも美味しくいただきたいものです…。

そんな時に気になってくるのは、ワインの『飲み頃』。
そして、その飲み頃までの『熟成』の時間。


このことは、答えを見つけることが非常に難しい問題です。ワインに携わる全ての人たちが、この難問に今現在も挑み続けています。

ボトルを目の前にして「いつ開けようか」「そろそろ飲み頃かな?まだ早いかな?」と悩んだことはないでしょうか?飲み頃を悩むこともワインの楽しみの一つです。しかし、実際のところは飲んでみないとわからないところもあります。

ワインは熟成が進むにつれて外観、香り、味わいが変化していきますが、「熟成が進む=美味しい」ということでは決してありません。それぞれのワインごとに『ベストな飲み頃』と『熟成のピークの瞬間』があり、同じワインでもそれが変わることもあります。

一つ一つの変化には理由があります。その理由の中にベストな飲み頃を知るためのヒントもあるはずです。今回はそんな『飲み頃』と『熟成』ついて考えてみます。

熟成による変化を探ってみる

『熟成』とは…。

言い換えれば、ワインが酸素に触れ続けることでおきる『酸化』という化学反応で、主に外観・香り・味わいを変化させます。また、ワインに含まれる様々な成分がこの変化に影響を与えています。主な成分の一つ一つの変化をみていきましょう。

色素成分

濃い色合いのワインは長期熟成が可能で、薄い色合いのワインは長期熟成が難しいと言われています。

ワインに含まれる色素で代表的なものはアントシアニンで、主にブドウの果皮に含まれています。色素成分は酸化しやすく、酸素と結びつく過程で成分自体の色が変化していきます。最初はピンクや紫がかった明るい色、濃い赤、そして茶褐色になっていきます。長期熟成したワインが茶色を帯びているのは、このことが理由です。

長期熟成ワインといえばボルドーが有名です。色素成分の多いカベルネソーヴィニヨン主体でワインを造るため、ボルドーワインは熟成能力が非常に高いのです。

アルコール度数

熟成の過程で、アルコールが酸化すると様々な副産物を生成します。

酸化したアルコールは有機酸を生み出し、さらにその有機酸は別のアルコールと結びつき、新しい芳香成分を造り出します。この芳香成分は赤ワインの場合、若い時はフランボワーズやカシスなどのフルーティーな香りで、熟成を経ていくとシナモンやキノコ、なめし革などの独特な香りで表現されます。このことにより、『熟成すると香りが複雑になる』と言われているのです。

水分

ワインを構成する成分の中で最も多いものは水分です。水分そのものは熟成しませんが、熟成の過程では、ワインのテクスチャー(口当たり、舌触り)に影響しています。

液体中には様々な成分と一緒に水の分子とアルコールの分子が浮遊しており、ワインを熟成させている時間の中で水分がアルコールを包み込んでいきます。舌にアルコールを触れにくくさせる現象が起こり、口当たりが滑らかになるのです。

アルコールの感じ方により「口当たりの違い」「舌に感じる刺激」が変化し、熟成させることで味わいをまろやかに感じるのです。ウイスキーの水割りがまろやかに感じるのも同じ理由です。

タンニン

タンニンという成分は、ワインの味わいの中で「渋み」として現れます。
「タンニンが滑らかで心地よい」「タンニンがざらつく」などと表現され、特に赤ワインにおいてはタンニンの状態がワイン全体の品質に大きく関わっています。強すぎる渋みはワインのバランスを崩してしまいますが、タンニンはワインにおける「骨格」となる要素です。少ないと味わいが締まらなくなり、全体的に繊細な印象に感じられることもあります。

タンニンは酸化すると旨味成分へと変化し、独特のまろやかな味わいになります。ざらついた渋みが柔らかくマイルドな渋みに移り変わり、タンニンの“質”が変化していくのです。熟成すると『渋みの角が取れて丸くなる』という表現は、このことに由来します。また、タンニン同士が結びつくことで不要な成分も生み出されます。この不要な成分が瓶の底に沈殿していくと、熟成によって生まれる「澱」となります。

タンニンはブドウの皮と種に多く含まれております。果皮が厚く小粒の品種であるカベルネソーヴィニヨンは、タンニンの含有量が多く熟成に向きます。逆に、果皮が薄くタンニンが少ない品種のガメイは、熟成せずとも楽しめるワインが造られることが多いです。

含まれる酸味

「酸が非常にキレイだ」「酸味が豊かで熟成のポテンシャルが高い」

生産者さんが自分のワインについてお話する時は、必ずと言っていいほど酸味について話されます。ワインには様々な酸が含まれおり、その中で一番多いのは酒石酸です。その他にもリンゴ酸やクエン酸、また発酵により生まれる乳酸や酢酸、コハク酸など多くのアミノ酸も含まれています。前述にもありますが、アルコールは酸化により有機酸を生み出し、結合を繰り返して新しい芳香成分を生成します。さらに元々ワインに含まれている有機酸類も、アルコールと結合していくことで次々と新しい香り成分を生み出していきます。

酸が豊かなワインほど、熟成により複雑な香りを生成することが多いのです。

飲み頃のヒントはあるのか?

このようにワインの熟成による変化を探ってみると、飲み頃のヒントがわかるかもしれません(あくまでもヒントですが…)。

『飲み頃』という言葉からワインを見てみると、大きく分けて「寝かせて熟成させたいワイン」と「寝かさずに楽しめるワイン」というものに分けられます。

「寝かさずに楽しめるワイン」の例は、この時期に話題となるボージョレヌーヴォー。このワインの原料となるブドウ品種はガメイです。毎年8月の終わりから9月上旬に収穫されて、醸造、瓶詰めを経て2ヶ月ほどでワイナリーから出荷されます。そして11月の第三木曜日には抜栓され、みなさまに飲まれています。ヌーヴォーというワインは「できたてのフレッシュなおいしさ」を大切に造られるワインで、原料のブドウをあまり潰さずに醸造されます。タンニンはほとんど含まれておらず、最初から熟成させる目的では造られていないため、寝かせることで味わいが大きく変化することは少ないです。

次に「寝かせて熟成させたいワイン」ですが、一般的に高級ワインになるほど飲み頃を迎えるまでに時間がかかると言われています。フランス・ボルドーの特級であるメドック5大シャトーのワイン。原料となる樹齢の高いカベルネソーヴィニヨンやメルロには多量な成分が存在しています。厚くなった果皮に含まれる豊富な色素成分やタンニン、張り巡らされた根から吸収されるミネラルなど…。そのようなブドウから造られるワインは、仕込んだばかりの状態ではそれぞれの要素が強く現れていて、まとまりもなく、あまり美味しさを感じられません。

『熟成』という、時間経過による様々な成分の変化を経て『飲み頃』を迎えるのです。

白ワインは長期熟成できるのか?

“寝かせて熟成させたい白ワイン”は赤ワインと比べると少ないです。

白ワインはブドウの皮や種を除き果汁だけで造られ、赤ワインはブドウの皮や種を果汁と一緒に漬け込みながら造ります。皮や種に含まれる色素成分やタンニンが、熟成を続けるための大事な要素でもあるので、長期熟成タイプのワインは白ワインより赤ワインのほうが多いのです。

もちろん長期熟成に向く白ワインもたくさんありますが、熟成よりフレッシュさを重視して醸造されることが多いです。白ワインの熟成による変化は以下のようなことが挙げられます。

外観

熟成が進むほど濃くなっていきます。色調もグリーンがかったイエローから黄金色、琥珀色へと変化していきます。

香り

若い頃は、柑橘類やトロピカルフルーツなどの果物、ハーブなどの植物や花の香りが中心です。
熟成が進むにつれて、ハチミツ、ドライフルーツ、トースト、ナッツのなど複雑性のある香りが増えます。

味わい

香りと同じようにフレッシュフルーツの印象から、熟成が進むにつれてドライフルーツやナッツが現れます。酸のシャープさが取れてマイルドに感じることも。全般的に果実味が穏やかになり、柔らかい印象のワインになっていきます。

まとめ

一本一本のベストな飲み頃を把握することができれば、どんなワインでも最高のポテンシャルの状態で楽しめます。そのような状態のワインに出合う確率を上げるのが私たちの仕事ですが…結局のところ、ワインの熟成を見極めるには抜栓してみないとわかりません。
ごく簡単にですが、ワインの中の成分が『熟成』を経ることでどう変化するのか、そのことが『飲み頃』にどう影響しているのかを書かせていただきました。
ややこしい内容ではありますが、今回の文章がみなさまのベストな飲み頃に繋がれば嬉しいです。