近年、国際コンペで多くの賞を総なめにしているジャパニーズウイスキー。熟成された深い香りと繊細で上品な甘さが世界から賞賛されています。日本が世界に誇るジャパニーズウイスキーは、朝の連続ドラマのヒットと昨今のハイボールブームとが相まって、その人気が再燃しました。あまりの人気の高さには原材料の調達が間に合わず、メーカーが一部の年代物の生産を休止するほどです。すでに国産の年代物のウイスキーは市場には出回っておらず、価格が高騰し、入手困難になっています。そんな人気のジャパニーズウイスキーを、扱いたいお店も多いのではないでしょうか。今日は、日本が誇るジャパニーズウイスキーの魅力を徹底的にお伝えします。
ジャパニーズウイスキーの定義
ジャパニーズウイスキーの定義は日本洋酒酒造組合によって定められ、2021年4月よりすでに適用されています。組合の自主基準であるため違反しても罰則はありませんが、国内で洋酒製造の免許がある82社が遵守するため、実質国内でのジャパニーズウイスキーの定義が決まっていると言えます。
これにより国産のウイスキーなのか、それとも海外原酒が使用されたウイスキーなのか明記されるようになりました。これまで国産ウイスキーに関しては酒税法に定義がなく、海外で生産され、輸入したウイスキーの原酒を国内で瓶詰した商品も「ジャパニーズウイスキー」として市場に出回っていました。このような市場での混乱や誤解を避け、国際的な評価が高まっているジャパニーズウイスキーのブランド価値の毀損を防ぐため定義を明確にしたという経緯があります。
日本洋酒酒造組合によるジャパニーズウイスキーの定義(日本洋酒酒造組合サイトより抜粋)
①原材料
原材料は、麦芽、穀類、日本国内で採水された水に限ること。なお、麦芽は必ず使用しなければならない。
②製 法
【製造】
糖化、発酵、蒸留は、日本国内の蒸留所で行うこと。なお、蒸留の際の留出時のアルコール分は95度未満とする。
【貯蔵】
内容量 700 リットル以下の木製樽に詰め、詰めた日の翌日から起算して 3年以上日本国内において貯蔵すること。
【瓶詰】
日本国内において容器詰めし、充填時のアルコール分は40度以上であること。
【その他】
色調の微調整のためのカラメルの使用を認める。
※特定の用語は、「ジャパニーズ」と「ウイスキー」の文字を統一的かつ一体的に表示するものとし、「ジャパニーズ」と「ウイスキー」の文字の間を他の用語で分断して表示することはできない。
ジャパニーズウイスキーの条件を満たしていない場合は、日本を思わせる人名や都市、地域名、名勝、地名、山岳名、河川名や、日本国の国旗及び元号などもラベルなどに表示することはできません。製法品質の要件に該当するかのように誤認させる恐れのある表示も禁止されています。
このような条件を満たして初めて「ジャパニーズウイスキー」を名乗ることができるのです。
ジャパニーズウイスキーの歴史
いまや世界で称賛されるジャパニーズウイスキー。どのように日本に伝わり歩んできたのでしょうか。その歴史は江戸時代にまでさかのぼります。
日本でのウイスキー文化の始まり
ウイスキーが日本に初めて持ち込まれたのは江戸時代、ペリーが黒船で浦賀に来航した1853年と言われています。2度目の来航の際、13代将軍 徳川家定にアメリカンウイスキー1樽が献上されたと記録されています。
その後、日本は開国。時代は明治へと移り変わり、少しずつ西洋文化が浸透したのに伴い、洋酒を飲む人も増えました。1902年の日英同盟締結後は、イギリスから大量にスコッチウイスキーが輸入されるようになり、多くの人にウイスキーが飲まれるようになりました。
日本での蒸留が始まる
1911年に関税自主権が回復し、輸入アルコールに税金がかかるようになったため、ウイスキーの値段が高くなりました。そのため、国内でウイスキーを作ろうとする機運が高まり、1923年に日本で初めて本格的なウイスキー蒸溜所が大阪府山崎に設立され、日本でウイスキーが作られるようになり、ここで製造されたウイスキーがジャパニーズウイスキーの元祖とされます。その後、試行錯誤を繰り返し、日本人の好みに合うウイスキーが作られるようになり、日本経済の発展と共に、国民のお酒として広く飲まれるようになりました。
ウイスキーブームの到来
戦後、高度経済成長期を迎えると大衆的な洋風バーが続々と登場し、ウイスキーは国民酒として定着して、日本中でウイスキーブームが巻き起こりました。1971年代前半にはスコッチウイスキーの輸入自由化と関税引き下げに伴う輸入洋酒ブームが起こり、1980年代には日本のウイスキーが飲食業界でも大ヒット。そのブームはバブル期のピークまで続きました。
ウイスキーブーム衰退からの復活
バブル期まで続いたウイスキーブームは酒税法の改正の影響もあり、バブル崩壊を機に低迷し“冬の時代”を迎えます。ウイスキーを愛飲していた層の高齢化、若者のウイスキー離れも追い打ちをかけ、市場が縮小に転じました。バブル崩壊後、四半世紀続いた“冬の時代”から脱却したきっかけは、2008年の「ハイボール」の登場です。リーズナブルな価格帯と、炭酸のさわやかさに飲みやすさが加わり、それまでウイスキーと縁遠かった若者から支持されるようになりました。更に2015年の朝の連続ドラマの影響もあって一大ブームを巻き起こし、市場が拡大して、今に至ります。
世界が認めるウイスキーへ転身
国内だけなく、2000年ごろから日本のウイスキーが世界のコンテストでも高い評価を受けるようになりました。日本のウイスキーメーカーが信念を持って、絶え間ない開発努力を継続した結果、芳醇で洗練されたまろやかな味わいが生まれ、ジャパニーズウイスキーが世界中の人々から高く評価されるようになったのです。そして、ついには世界の5大ウイスキーの仲間入りを果たし、世界中から高く評価され続けています。
ジャパニーズウイスキーの味わい
ジャパニーズウイスキーがワールド・ウイスキー・アワーなどの国際コンテストで評価される理由に、「繊細で上品な甘い口当たり」が挙げられます。ジャパニーズウイスキーの特徴はこの甘味ともいえるでしょう。しかし、ジャパニーズウイスキーは糖分を含みません。ジャパニーズウイスキーが甘く感じられる秘密は「味」ではなく「香り」にあります。この甘い香りは、原酒を熟成するときに使う「樽」の原料に含まれている成分が溶け出すことで生まれます。特に、ミズナラの木は日本独自の素材として使用され、ミズナラの樽で原酒を熟成させると、ミズナラの香りの余韻はもちろん、若い頃はココナッツに似た香りを漂わせます。さらに長く熟成させるほど、伽羅や白檀にたとえられる繊細で上品な香りを生み出します。そして、ジャパニーズウイスキーの甘さのもう1つの秘密は、アルコールの一種である「エタノール」にあります。このエタノールが口の粘膜を刺激し、脳がその刺激を快楽物質として、受け取ります。樽材から溶け出した香りは脳に甘みを連想させ、ジャパニーズウイスキーを甘いと感じさせるのです。
ジャパニーズウイスキーの分類
ジャパニーズウイスキーは、原材料と製法の違いによって、大きく4つに分類されます。
①シングルモルトウイスキー
シングルモルトウイスキーとは大麦麦芽(モルト)だけを原料に、1つ(シングル)の蒸留所だけで作られるウイスキーを指します。他の蒸溜所の原酒とブレンドされないため、蒸留所ごとの個性が際立つ味わいが特徴です。クセが強いため銘柄によっては好き嫌いが別れますが、通には愛されるウイスキーです。
②シングルグレーンウイスキー
シングルグレーンウイスキーとはトウモロコシやライ麦、小麦などの穀物(グレーン)を主原料として、1つ(シングル)の蒸溜所で作られるウイスキーを指します。蒸溜機のなかで何度も蒸溜されるので、アルコール度数が高く、クセがない味わいが特徴です。クセが少なく飲みやすいためウイスキー初心者におすすめです。
③ブレンデッドウイスキー
ブレンデッドウイスキーとはモルトウイスキーやグレーンウイスキーなど、複数の蒸留所で作られた原酒をブレンドしたウイスキーを指します。モルトウイスキーは個性強く、グレーンウイスキーは味が単調なため、この2つのウイスキーをブレンドすることで、それぞれの欠点を補い合います。ブレンデッドウイスキーはマイルドでバランスのとれた完成度が高い味が特徴です。
④ピュアモルトウイスキー
ピュアモルトウイスキーは複数の蒸溜所のモルト原酒をブレンドした100%モルトウイスキーを指します。スコットランドでは「ピュアモルト」という呼び名は禁止されており、「ブレンデッドモルト」と呼んでいます。今では「ピュアモルト」という呼び方は日本独自のもので、世界で主流になっているブレンデッドウイスキーに対し、あえて“ピュア”という言葉をつけて、モルト100%であることを強調しています。ピュアモルトウイスキーは複数の蒸留所のモルトをブレンドしているため、より複雑な味わいを楽しめるウイスキーとなっています。
ジャパニーズウイスキーの選び方
ジャパニーズウイスキーを選ぶポイントを4つに分けて紹介します。
①予算に合わせて選ぶ
ジャパニーズウイスキーは、数千円で買える安価なものから数万円もする高価なものまでその値段はさまざまです。予算の幅が広いので、お店のコンセプトや客層に合わせて提供しましょう。通常のハイボールに加えて、ジャパニーズウイスキーを使ったハイボールを、プレミアムな1杯として導入するのも良いかもしれません。そうすることで、一杯あたりの単価も、お客様の満足度も上がるでしょう。
②提供方法で選ぶ
ジャパニーズウイスキーはストレートや水割りなど、飲み方を変えるだけでも楽しみ方が広がります。
ウイスキーの個性を味わいたい場合はシングルモルトウイスキーをストレートやロックで。水割りで飲むと、同じウイスキーでも水がウイスキーの個性を包み込むため、口当たりがマイルドになります。ストレートやロックに比べると飲みやすくなるので、食事と一緒に楽しみたい時にお勧めです。そして、ウイスキーの飲み方で、今一番人気があるのはハイボールでしょう。よく冷えたハイボールはウイスキー本来の味わいやコクを際立たせます。ハイボールは炭酸水で割るので風味や香りが薄くなるため、ウイスキー特有の香りや苦味が強い銘柄を選ぶと良いでしょう。
③香りや味の特徴から選ぶ
ジャパニーズウイスキーは香りや味わいがそれぞれ特徴的なので、熟成時に使用される樽材の違いやピート香など、香りの由来別にウイスキーを楽しむことができます。
ピートとは、泥炭を意味し、コケなどの海藻類や枯れた草花が堆積し、長年かけて自然に炭化したものを指します。いわば若い石炭のようなもので、天日に干して乾燥させて、燃料として使います。この燃料を使って麦芽をいぶすことでウイスキー特有のスモーキーな香りが生まれます。このスモーク香をピート香と言います。このピート香が強いほどクセが強くなり、通が喜ぶ味わいになります。
また、ウイスキーを熟成するときに使用されている樽材によっても、その味わいが大きく変わります。一般的に、ジャパニーズウイスキーではミズナラの樽が使われ、白檀や伽羅の香りをもたらします。他にもバーボン樽はタンニンを多く含むためスパイシーな香りやバニラのような甘い香りをもたらし、スパニッシュオーク材のシェリー樽は、レーズンやドライフルーツを思わせる芳醇な香りをもたらします。ワイン好きな人であればワイン樽で熟成されたウイスキーを提供するのも良いでしょう。
④蒸溜所やメーカー、銘柄ごとの特徴から選ぶ
蒸溜所に着目してジャパニーズウイスキーを選ぶのも楽しみ方の一つです。ジャパニーズウイスキーは、それぞれの蒸留所が建っている気候の違いや、メーカーによるこだわりも、その個性的な味わいの中に感じることができます。個性豊かな「シングルモルトウイスキー」だけで飲み比べても楽しいですし、ブレンデッドウイスキーやグレーンウイスキーも加えて飲み比べると、銘柄やメーカーごとの味や香りの違いも楽しめるでしょう。
まとめ
日本が世界に誇るジャパニーズウイスキーについて紹介をしました。それぞれのウイスキーに込められたこだわりや歴史に想いを馳せながら、ゆっくりとした時を堪能できるジャパニーズウイスキー。あなたのお店にピッタリのものを見つけてくださいね。