一流レストランなどで、ワインをボトルから移しかえて提供しているのを見かけたことはありませんか? これは「デキャンタージュ」と呼ばれるもの。見た目がいいからそうしているのではなく、きちんとした理由があって行っています。今回は、知っておきたいデキャンタージュの効果などについて解説します。
デキャンタージュとは?
デキャンタージュの「デキャンタ」とは主にガラスでつくられたワインを入れるための容器のことを指します。「デキャンタージュ」とはワインをデキャンタに移し替えることを言います。一流レストランやフランス料理店に行くと、ボトルではなくデキャンタに入ったワインがテーブルに運ばれてくるのを見かけます。ワインをわざわざ別のガラス容器へ移すのはなぜだろう?なんて思っている方もいるかもしれませんが、デキャンタージュはワインをより美味しくいただくための作業なのです。
デキャンタージュする理由
ボトルに入っているワインを直接グラスに注がず、一度デキャンタに移し替える「デキャンタージュ」。ここではその目的について解説します。
1.ワインの中の澱(おり)を取り除く
抜栓したワインボトルの底には澱が沈殿していることがあります。澱を飲んでも害はありませんが、口当たりが良くないため、底に沈んでいた澱も一緒にグラスに注ぐとせっかくのワインが台なしになってしまいます。ワインを別の容器に移し替えてサーブすることで、澱がグラスに入るのを防ぐというのがデキャンタージュの目的のひとつです。
2.香りを「開かせる」
もうひとつの目的は、ワインを「開かせる」ことです。熟成が進んでいない若いワインは、タンニンや酸味が突出して感じられ、香りに広がりがありません。これをワイン用語で「閉じている」と表現します。熟成が不十分なワインを「開かせる」のがデキャンタージュの役割。デキャンタに移し替える際、ワインを空気に触れさせることで酸化を促進させます。そうすることでタンニンが和らぎ、そのワイン本来の華やかな香りを楽しむことができます。
3.味をまろやかにする
抜栓直後のワインは飲みにくさを感じることもあります。特に渋みや酸味が強いワインはその傾向が強いため、デキャンタージュして空気に触れさせることで味をまろやかにします。
デキャンタージュに向くワイン、向かないワイン
デキャンタージュはワインを美味しくいただくための作業ですが、すべてのワインに有効というわけではありません。デキャンタージュに向いているワイン、そうではないワインのタイプを紹介します。
向いているワイン
長期熟成しているワイン
ヴィンテージの赤ワインやポートワインは澱がたまっていることが多いため、それを取り除くためにデキャンタージュします。
熟成が不十分で若いワイン
熟成が足りない若い赤ワインは香りが閉じているため、空気に触れさせて香りを華やかにします。特に熟成が不十分なボルドーワインはデキャンタージュがおすすめ。
渋みが強いワイン
ポリフェノールが豊富で渋みが強いボルドータイプは、デキャンタージュすることで香りが華やかになり、マイルドな味わいになります。
不快な臭いのするワイン
テイスティング時に不快な臭いを感じる場合は、デキャンタージュによって本来の香りを取り戻せることがあります。
向いていないワイン
繊細な香りや味が特徴のワイン
ブルゴーニュタイプのピノ・ノワールなどは、デキャンタージュすることで酸味がきつくなったり、香りが飛んだりすることがあります。還元臭が気になる場合はデキャンタージュではなく、グラスに注いだ後にスワリングしましょう。
白ワインやスパークリングワイン
白ワインやスパークリングワインは酸味が味に深く関係するため、デキャンタージュには向いていません。ただし、白ワインでまろやかさを加えたい場合、ヴィンテージ・シャンパーニュやグレードの高い白ワインで澱が気になる場合は、デキャンタージュをすることもあります。
デキャンタージュの正しい手順
デキャンタージュの理由、有効なワインのタイプが分かったら、次は実践。ただ単純にデキャンタに注げばいいというわけではなく、正しい手順で行うことが大事です。
- できれば抜栓する数日前からワインを立てて、澱をボトルの底に沈めておきます。
- 澱が舞い上がらないように気をつけながら開栓したら、まずは清潔な布でボトルの口の汚れを拭います。
- ボトル内の澱がよく見えるよう、ライトなどでボトルネックから下の肩の辺りを照らします。
- ボトルを持つ手が震えないように脇をしっかり締めて持ちます。もう片方の手でデキャンタの上部のくびれた部分を持ち、親指を立てるようにしてワインのボトルネックに添え、ワインボトルを安定させます。
- ボトルを静かに傾けてワインを注ぎます。澱のあるワインは、角度をつけすぎて澱が舞わないように気を付けます。デキャンタも斜めに倒し、ワインがデキャンタの内側を伝って流れ落ちるようにゆっくりと一定の速度で注ぎ込みます。そうすることで、より長時間、ワインを空気に触れさせることになり、ワイン本来の豊かな香りや味わいを開かせることができます。静かに上澄みだけを注ぎ入れるようにすると、エレガントなデキャンタージュに見えます。クリスタル製など繊細なデキャンタは欠けてしまう恐れがあるため、ボトルの注ぎ口をデキャンタにあてないように注意を。
- ボトル内のワインが少なくなってきたら、ライトによって照らし出されたネックの部分をよく見ながら、澱がデキャンタに入らないよう注意します。これ以上注ぐと澱が入りそうというギリギリのところで注ぐのをやめ、そっとボトルを立てます。
澱がない若いワインの場合は、少しだけ勢いをつけてデキャンタの内側に幅広く当てるようにして注ぎましょう。空気に触れる面が広がるため、香りがしっかり開きます。デキャンタージュが終わった時点で、デキャンタ内でワインをスワリングして空気に触れさせてもOKです。
デキャンタの選び方
デキャンタといっても、素材も形状もさまざま。400ml~1500ml入るものが一般的ですが、小さなサイズのものもあります。
デキャンタを選ぶときは、どのようなワインに用いるかを考えて用意しましょう。若いワインの場合は、空気に触れさせることが重要になるので、ワインを注ぐ口が広いタイプを。一方、澱を取り除きたいだけのワインの場合は、細口で縦長のものを使いましょう。両方のタイプがあれば便利ですが、どちらかだけという場合は店のワインを確認してから購入しましょう。
また、テーブルの上に置いておくだけで絵になるようなデザイン性の高いデキャンタも数多く出ていますが、お店では扱いやすさを考えて用意することをおすすめします。
まとめ
今回は、デキャンタージュについて紹介しました。なぜデキャンタージュが必要なのかお分かりになったでしょうか。デキャンタージュしたほうがいいワインがどれかをあらかじめチェックしておき、お客様に提供する際、それをお伝えできればスマートな印象を持っていただけそうですね。デキャンタージュを上手に取り入れ、お客様に美味しくワインを飲んでいただきましょう。