今回はワインを表現する言葉についての記事です。ワインの表現方法として、最近よく見受けられるk言葉に『ミネラル』という表現があります。
ミネラルという言葉から、塩味を感じる味わいや、硬質的な風味なのかと思われますが、そういったものとはまた別の香味も表現されていることがあります。『ミネラル感のあるワイン』という言葉は大変便利ですが、曖昧な表現であり、誤解を招く要因にもなっています。しかも、ワインの中に感じるミネラルは、何が原因で生じるのかはっきりしていないのです。
…とはいえ、ワインの中にミネラルを感じるのはもちろん、そのミネラルがワインをよりバランスよく、より上質に仕上げている重要な要素であることは事実です。一体、ミネラルを感じる要因とはどこからくるのでしょうか?今回はこのミネラル感について考察していきます。
ミネラルを整理してみると…
ミネラルとは、日本語で無機質、灰分とも言われています。主にカリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅、マンガンなどです。基本的に無味無臭で、口に含むとちょっと苦い風味があり、石や岩、金属など硬いもののイメージもあります。
テイスティングにおけるミネラルも、まさにこのような感覚的なニュアンスのことを指します。
ワインの原料となるブドウは、根から”窒素・塩素・硫黄・ミネラル”を吸収しています。この場合のミネラルには、”鉄・マンガン・リン・カリウム・カルシウム・銅・亜鉛”などがあり、これらのミネラルがブドウに含まれ、成長し、収穫され、やがてはワインになっていくのです。しかし、ワイン中に存在するミネラルの量のレベルでは、香味は全く発生せず、味にも影響を与えません。
なので、ワインで用いられるミネラル感はあくまでも感覚的な言葉です。そのため、ミネラル分の含有量の低いワインでも、テイスティングでは『ミネラル感がある』と表現されることがあります。
香りから感じるミネラル感…土壌との関係
かつては土壌のミネラル分がワインに移るとよく言われていましたが、現在は科学的に否定されています。『ミネラルを感じるワイン』とは”窒素不足の痩せた土地で栽培されたブドウを原料とするワイン”に表現される傾向があります。
ワインは果汁を発酵させて造られます。発酵には酵母が必要で、酵母は増殖と代謝をするために、窒素を必要します。発酵に必要な窒素が十分でないと酵母が感じた場合は、酵母は果汁中のアミノ酸などを分解して窒素を確保しようとします。このアミノ酸の中には硫黄を含むものがあり、それらの分解によって、硫化水素やメルカプタン類の硫黄化合物が生成されます。これらの物質が僅かな量の場合、岩石や鉱物を連想させる香味を感じるようになります。多い場合は異臭に感じますが、この僅かな香味がミネラル感を生むわけです。
簡単にまとめますと、
①窒素の不足した痩せた土地でブドウを栽培 |
②土の窒素が少ないため、ブドウ果汁から窒素を調達 |
③酵母は果汁中のアミノ酸などを分解 |
④アミノ酸の分解によって硫黄っぽい異臭物質が発生 |
⑤異臭物質が僅かな場合に岩石や鉱物っぽさを感じる |
⑥結果、ミネラルを感じられる |
以上のことが、香りから感じるミネラルの正体といわれています。
味わいから感じるミネラル感…味わいよりも質感
口に含んだ時に感じるミネラル感には、次のようなニュアンスを感じます。
●水道の蛇口から水をゴクゴク飲むときに感じる金属味や塩味 |
●血や鉄の印象(赤ワインの場合が多いです) |
●ガス入りのミネラルウォーターの泡の感じ |
上記の例ような、『飲んだ後の口内が引き締まるような感覚』から”ミネラル感=質感(テクスチャー)”であるとも言われています。微妙な塩味や苦味を旨味に似た感覚と表現する人もいます。味わいとまでは言えない繊細な感覚です。
塩味や苦味を感じるのは、“コハク酸”と言われる有機酸に由来すると考えられています。海に近い場所にブドウ畑あるから、ワインに塩分を感じるというわけではないのです。酵母により生成されたコハク酸が、他の有機酸とのバランスで塩味のように感じると言われています。コハク酸は貝類の主な旨味成分で、単体で味わうと、やや塩気のある苦味に感じます。
また、pHが低いワインにミネラル感を感じることが多いようです。pHが低いワインには有機酸が大変多く含まれ、「有機酸がワインに含まれる金属をイオン化して、舌に吸収されやすくなっているのでは?」という見解もあります。舌にさまざまな成分が吸収されていれば、”骨格・ストラクチャー・旨味”のあるワインと感じるため、それがミネラル感に繋がるとも考えられています。
じゃあ、どんなワインが『ミネラル感がある』なの?
実際には、以下のようなワインがミネラルを感じると表現されています。
◆ブルゴーニュの冷涼地域のシャルドネ |
◆ドイツやフランス・アルザス地方のリースリング |
◆フランス・ロワール地方のソーヴィニヨン・ブラン |
◆スクリューキャップのソーヴィニヨン・ブランに多く感じられる |
◆成熟度が低いヴィンテージのワイン |
◆灌漑されて育った浅い根を張ったブドウから造られる新世界のワインよりも、旧世界のワインに感じる |
ミネラルを感じるワインの多くは白ワインです。特に冷涼な産地で造られる果実味が穏やかで酸味の強いワインが多いです。木樽の香りも効かせすぎず、ステンレススタンクで醸造したワインには特にミネラルを感じます。赤ワインにもミネラルを感じますが、赤ワインと比べて、pHの低い白ワインのほうがよりミネラルを感じられます。
スクリューキャップは硫化物を発生させやすい栓です。また、成熟度が低いヴィンテージのワインは強い酸味を感じることがあります。このことから、やはり硫化物や有機酸とミネラル感は、深い関係にありそうです。
逆に、マロラティック醗酵を経ているワインは、ミネラルを感じにくいかもしれません。マロラティック醗酵は、リンゴ酸を乳酸に変化させる工程ですのでpHは高くなります。このことも、赤ワインにミネラル感が少ないと言われる理由です。
まとめ
香りや質感が関係しているはずですが、『ミネラル感とはこれだ!』という表現は、まだまだ謎が多く証明できない部分もあります。ワインの楽しみ方の一つと考えて、みなさんもワインからミネラルを感じとってみてください。