2000年代に入ってから、『自然』という言葉が私たちの衣・食・住において大きな意味を持ってきていることは確かです。特に食べ物と飲み物が自然であるかということに対して、人々の関心は日に日に大きくなり、目まぐるしく変化してきています
自然派ワイン、ヴァンナチュール、ナチュラルワイン…。
表現する言葉は様々ですし、こういった言葉でカテゴリー分けすることがいいのかわからないですが、ここでは自然派ワインで統一させていただきます。
そもそも自然派ワインとは…
『自然派ワイン』とはとても曖昧な言葉です。
絶対的にこうでなければならないという決まりがなく、人によって考え方、造り方がいろいろ。厳密な定義はありませんし、お酒の法律的には存在しない言葉です。
そして規則や基準によって定められている呼称や、ラベルに記載されている用語とは違います。そのようなことすべてを『自然派』という言葉で括ってしまうので、曖昧な表現になりがちです。
安定したクオリティーのものを量産できるように進化してきたワイン造りですが、ある時に「もしその進化が過剰だとしたら?」という疑問が生まれます。その疑問から、作業のタイミングを見直したり、収穫量の適正化を図ったり、薬剤への依存を減らしたり…
決められた味に向かうのではく、その土地ならではの味、天候や発酵の具合など、年によって異なる状況の違いを受け入れ、試行錯誤し、逆にそれを生かすように造っていく。すると、なぜかワインから、造った人の生き様や人柄、生まれ育った場所を感じられるようになってきくるのです。
「こうすればこういうワインができる」という『方法論』や『設計図がある』ということではなく、「ワイン造りの原点に立ち返りながら、自分の考えや選択肢でワインを造る」という、ひとりひとりが理想とするワインを生み出すための『方向性』や『姿勢』を表す言葉が自然派ワインであると考えています。だからこそ、曖昧ではありますが自然派ワインという言葉を使いますし、そんなワインに夢中になるのだと思います。
とは言ってまいりましたが、ある程度の明確さ必要かと。
お酒の紹介の中で『自然派』というような言葉を使うワインは、このような場合が多いです。
◆使用されるブドウが(認証取得の有無にかかわらず)有機栽培されている。 |
◆培養酵母ではなく、ブドウの皮やワイナリーに存在している天然酵母による発酵を行う。 |
◆補糖、補酸などの味わいの調整を行わない。 |
◆酸化防止剤をなるべく少なめに抑えている、または使っていない。 |
などなど…
ざっくりとまとめますと、化学肥料、農薬を使わない畑で育ったブドウで造られ、天然酵母で発酵したワインです。酸化防止剤は使用しないか、使用したとしてもごくわずかに留めています。
オーガニック、ビオ、自然派…違いって?
オーガニック
オーガニックとは、化学肥料や除草剤といったものを使用せず、また遺伝子組み換えや放射線処理されたものの使用が禁止されております。基本的には「栽培方法の考え方」として使われています。
オーガニックという認証は、各国で出されており、日本では『有機JASマーク』が認証マークとされています。他にもEUでは『ユーロリーフ』、アメリカでは『USDA』、オーストラリアでは『ACO』などそれぞれの国で認証が行われています。
オーガニックを細かく見ていくと、リュット・レゾネ(減農薬栽培)、ビオロジック(有機栽培)、そしてビオディナミという栽培方法があります。
リュット・レゾネ
「LutteRaisonnee」と表記されるフランス語のリュット・レゾネは、減農薬農法の総称として使われています。除草剤や殺虫剤、化学肥料など、人工的に生成されたものは基本的に使用せず、病害や虫などが発生した場合に、必要最低限の量で、ブドウの生育をする方法です。
それらの厳密な使用量の定義などがないため、有機農法と認められない場合もありますが、現在もっとも世界で広く採用されている栽培方法です。また、人によってやり方も様々なため、次に紹介するビオロジックを採用している生産者よりも、厳しい基準で栽培を行っている造り手も多く存在しています。
ビオロジック
多くの場合、オーガニックと表現するときに想像される栽培方法がこのビオロジック(有機農法)です。自然を尊重した農法で、除草剤や殺虫剤などの化学物質に頼らないことを指しています。
有機肥料を使用し、虫や微生物と共存できる畑を作り上げることで、天然酵母が生成されます。これによって、基本的には酵母を添加することなく、発酵を進めることができます。(発酵を促すために、収穫後のブドウの状況により少量の酵母を添加する生産者もいます。)
ビオディナミ
ビオロジックをさらに掘り下げた農業のやり方が、このビオディナミ農法です。
ビオロジック同様、化学肥料や農薬を使っていない畑+占星術や天文学的影響を掛け合わせて栽培をしていきます。
月の満ち欠けに合わせて、収穫や剪定、澱引きや瓶詰めなどといった作業を行います。さらにプレパラシオン(自然界に存在する物質を調合した調剤)を使い、土壌やブドウの木の能力を引き出していく農法です。ちなみにプレパラシオンには、それぞれの目的に合わせて、花や牝牛の角などを利用しています。
ビオディナミは、フランス語で『生体力学』を意味しています。1920年代にオーストリアの哲学者、ルドルフ・シュタイナーによって提唱されたものです。ビオロジックやオーガニック栽培が「極力何もしない」ということに重きを置いた理論なのに対し、ビオディナミは、そのビオロジックに加えて「何をしていくか」という考えを持っています。栽培過程で生じる問題に対して、処置・手当をするのではなく、問題が生じないように予防をしていくと考えられています。
『オーガニックワイン・ビオワイン=自然派ワイン』ではありません
だいたいの場合、”オーガニック・ビオ”と言った場合ですと、『ワインの原料となるブドウは有機栽培されました』ということを指します。ワインの醸造の段階における補糖・補酸といった処理や、培養酵母の使用に関しての規定や制限はありません。つまり”オーガニック・ビオ”とは、あくまで農法のことをいう用語です。栽培から醸造に至るまで、一貫して自然なワイン造りが行われているという意味ではありません。
『造り手が悩み、考え、行動した結果』がよく見えることが重要だと思います。
ただ、有機栽培だから、自然酵母だから美味しいといったことはありませんし、このようなスペックを重要だとは考えておりません。自然派だからそれでいい、この生産者だから大丈夫ということも100%は言い切れません。
自然派ワインの人気が伸び続けている中で、その過度な思いに疑問を持つ人がいるのも事実です。とりわけワインがより身近にある、飲食店、酒屋の人たちの間では賛否が大きく分かれ、物議を醸しています。まずは味わいや香りも含め、自分自身の感覚でしっかりと判断する必要があります。その上で、お客様に造り手の考えに沿ったワインを美味しく飲んで、楽しんでいただくこと。
この人柄を感じとれるワインがどのようにして生まれるのか、背景を伝えることができるように、今後も少しずつ言葉にしていきたいと思います。