2021年2月21日、日本洋酒酒造組合からジャパニーズウイスキーの定義が発表されました。
「気になってはいるけど自分で調べるのはちょっと…」という方におすすめの今回。
5分ほど読み終わります。
5つの定義(ここだけ読んでもらえればだいたいOK)
それでは、今回決められたジャパニーズウイスキーの定義です。
◆原材料は『麦芽・穀類・水(日本国内で採水された水)』に限ります。麦芽は必ず使用しなければなりません。 |
◆糖化、発酵、蒸留は日本国内の蒸留所で行ってください。蒸留の留出時のアルコール分は95度未満にしてください。 |
◆内容量700ℓ以下の木樽に詰めて、それを詰めた翌日から3年以上日本国内で貯蔵してください。 |
◆日本国内で容器に詰めて、充填時のアルコール度数が40度以上にしてください。 |
◆色合いの微調整のためなら、カラメルは使用してOKです。 |
しっかりと定義されています。そして『日本国内』という言葉がたくさん出てきます。
以上の定義をクリアすることで、『ジャパニーズウイスキー』と表記することができるのです。さらに表記する『ジャパニーズウイスキー』の“ジャパニーズ”と“ウイスキー”の間には、何も言葉を入れてはいけないということも決められました。
この基準を満たしていないウイスキーはジャパニーズウイスキーと名乗れないだけでなく、“それらしい名前”も付けられません。
“それらしい名前”とは…
◆日本を連想させるような人名(例:てる・たくろう・ひさし・じろう) |
◆日本の地名(都市名・地域名・名勝地名・山岳名・河川名) |
◆日本の国旗や元号 |
今回の定義は、イギリスの『スコッチウイスキー』などを参考に決定しました。
今まで、日本の酒税法には『ジャパニーズウイスキー』という定義は無く、輸入ウイスキーの原酒で造られた商品がジャパニーズウイスキーとして国内外で流通していることもありました。同組合は、「ホームページに英語版でも公開しております。海外のバイヤーや一般の消費者の方も参考にしていただければ」と言っております。国産ウイスキーの人気が世界的に高まる中、品質向上と消費者保護につなげるのが目的です。
あくまでも組合の自主基準なので違反しても罰則はありません。しかし、この定義の発表によって、スコッチやバーボンのように『ジャパニーズウイスキー』というブランドイメージがより強く認識されることは確かです。
各国のウイスキーの定義
各国のウイスキーの定義との違いはどうでしょうか?
世界五大ウイスキー国(スコットランド・アイルランド・アメリカ・カナダ・日本)で見てみましょう。
スコッチウイスキー(スコットランド)
◇水、酵母、大麦麦芽(モルト)およびその他の穀物を原料とすること |
◇スコットランドの蒸留所で糖化と発酵、蒸留を行う |
◇アルコール度数94.8%以下で蒸留 |
◇容量700ℓ以下のオーク樽に詰める |
◇スコットランド国内の保税倉庫で3年以上熟成させる |
◇水と(色調整のための)スピリットカラメル以外の添加は不可 |
◇アルコール度数40%以上で瓶詰めする |
アイリッシュウイスキー(アイルランド)
◇穀物類を原料とする |
◇麦芽の酵素にて糖化、酵母の働きで発酵 |
◇蒸留液はアルコール度数94.8%以下に抑える |
◇木樽で3年以上熟成させる |
◇アイルランド、または北アイルランドの倉庫にて熟成を行う |
アメリカンウイスキー(アメリカ)
◇穀物類を原料とする |
◇アルコール度数95%以下で蒸留する |
◇オーク樽で熟成させる(コーンウイスキーは除く) |
◇アルコール度数40%以上で瓶詰めする |
さらにバーボンになると、上記の基準を満たした上で
◇原料にトウモロコシを51%以上使用(原料比の半分以上) |
◇アルコール度数80%以下で蒸留する |
◇内側を焦がしたオーク樽の新樽で熟成させる |
◇樽詰めの際のアルコール度数は62.5%以下にする |
◇ストレートバーボンと名乗るには2年以上熟成させる |
◇瓶詰めの際、水以外を加えずに度数40%以上で瓶詰め(ストレートバーボンのみ対象) |
カナディアンウイスキー(カナダ)
◇カナダで糖化、蒸留、熟成を行う |
◇原料は穀物や穀物由来原料のモロミを麦芽やその他の酵素で糖化 |
◇酵母またはその他微生物との混合作用で発酵 |
◇700ℓ以下の木製の容器で3年以上熟成 |
◇瓶詰め度数は40%以上でカラメルまたはフレーバリングを含む事が可能 |
◇カナディアンウイスキーであると認められる香り・味覚・品質を備える |
樽の材料や糖化・発酵方法など、他国と比べるとジャパニーズウイスキーの定義は、比較的優しめな印象を受けます。ただ、日本はあくまで酒税法上の基準なので、ウイスキー専用の法律があるスコットランドやアイルランドなどと比べると、優しくなるのは当然です。『定義が優しい=品質が劣る』というわけではありません。
新基準に満たないウイスキーはどうなるの?
ここで一つ疑問が…
今はジャパニーズウイスキーとして販売していますが、新基準に当てはまらなくなるウイスキーは今後どうなるのでしょうか?
大手のジャパニーズウイスキーは、
◇サントリー | 響・山崎・白州・知多・ローヤル・スペシャルリザーブ・オールド・季TOKI(海外限定商品) |
◇ニッカウヰスキー | 竹鶴・余市・宮城峡・カフェグレーン |
◇キリン | 富士 |
などがそれぞれジャパニーズウイスキー新基準の対象となります。
ちなみにですが、ニッカウヰスキーの宮城県限定商品『伊達』は、一部輸入原酒を使用しているために対象外となってしまいます。(令和3年3月3日現在)
~以下規約より~
◇第2条(経過措置)
2021年3月31日以前に事業者が販売するウイスキーについて、第5条に定める特定の用語を表示してきたとき(第6条第1項に定める表現で表示してきたときを含む。)又は第6条第2項各号に定める表示をしてきたときは、2024年3月31日までの間、当該表示してきたウイスキーに限り、なお従前の例によることができる。
つまり、新基準に対応していないジャパニーズウイスキーは、「2024年までの3年間で対応してくださいね」ということになります。ラベルや名称を変更するなど、企業への対応のために3年の期間を設けているが、なるべく早めに基準を守ってほしいという考えです。
小規模生産のクラフトウイスキーメーカーなど同組合に未加入の企業に対しては、まずは同組合への加入を呼びかけ、基準への対応を働きかけるようです。定義が決まったことによる、さらなるジャパニーズウイスキーの発展が楽しみですね。